第115話 伝わらなかった想いの恐怖

「ふわぁ〜っ!もふもふだぁ〜!」



 俺たちは、うさぎのふれあい広場まで来ると優奈がさっそくうさぎの方まで行った。

 普通なら混んでいると思われるふれあい広場も昼食時なので人は全くと言っていいほどいなかった。

 なので優奈から逃れるためのルートはいくつもある。もちろんうさぎの。

 優奈がうさぎへと近寄るとそのうさぎはすぐさま逃げて行った。



「に、逃げられた!?」

「そりゃ、そんな獲物を狩るような目をしてたら逃げるよ。」

「うっ、私、そんなに怖い顔してるかな?」



 優奈は、自分の顔をぺたぺたと触り確認する。

 そんな様子を見ている俺のところにうさぎが寄ってきた。



「おっ?なんだ、優奈は嫌だから俺のところに来たのか?」



 俺は、そう言って寄ってきてくれたうさぎの頭を優しく撫でる。



「おお、これはなかなか………」

「むぅー」



 俺がうさぎの頭を撫でるのに堪能する中、優奈が頬を膨らませて怒ったような表情で見てきた。



「なんで陽一くんだけ………」

「そんな事言われても………ほら、優奈もこっち来いって。」

「う、うん。」



 優奈が俺の近くに来るとうさぎはサッと俺の後ろに隠れた。



「………こりゃ、完全に敵対心を向けられてるな。」

「そ、そんなぁー。」



 そんなふうに嘆く優奈の元にも1匹だけうさぎがやって来た。



「き、来たっ!陽一くん、来たよ!私の元にも!」

「そうだな。優しく撫でてあげるんだぞ?」

「う、うん。」



 優奈は、恐る恐るうさぎの頭に手を乗せなんの敵対心を見せてこないことを分かるとゆっくりとその手を動かした。



「〜っ!えへへ〜、可愛い〜。」

「……………」



 俺は、この時思った。

 この場に誰もいなくてよかったっと。この嬉しさで満ちた優奈の表情を見れるのは俺だけなんだから。



「ん?陽一くん、どうしたの?」

「………いや、なんでもないよ。それよりもよかったな、優奈にも懐いてくれるうさぎがいて。」

「あっ!それ、自分は私よりも懐かれてますよアピール!?ぶーぶー!」

「あはは」



 優奈は、またも可愛らしく頬を膨らませて怒っている。

 そんな優奈を見て俺は、笑う。そして、その後、優奈は「もうっ」と少し呆れてから俺と一緒に笑う。

 楽しい、面白い、そんなプラスな感情で俺は、今を満たしていた。

 ずっとこのままでいたいとも思える。

 でも、それは俺の願いなだけで現実はいつも無情に時間を進ませそして終わりを告げらせる。

 気づいたら時間は16時半。動物園は17時には閉園でそれを知らせる放送があちこちから聞こえる。



「……………帰るか。」



 俺は、名残惜しさを胸に抑え優奈にそう告げた。

 だが………



 優奈side



 時間は遡り朝の9時頃。

 みんなとの待ち合わせ時間よりも前に私の家に麻美ちゃんがやって来た。



「どうしたの、麻美ちゃん?」

「ちょっと言いたいことがあってね。」



 麻美ちゃんの表情は真剣そのものだった。

 私は、麻美ちゃんを部屋へと上げて話を聞いた。



「………ねぇ、優奈。あなた、今の生活が楽しい?」

「え?」



 私は、何を聞かれたのか最初は理解できなかった。



「ごめん、ちょっと聞き方が悪かったわね。優奈は、上ノ原くんとずっと今のままでいいの?」

「っ!」



 それは今の私の心をぎゅっと掴むような一言だった。



「あなた、この1週間、1度でも上ノ原くんの目を見て話した?」

「……それは……」

「上ノ原くんって優しいでしょ?だから、この1週間できっと上ノ原くんが感じたことは今は避けられてるから当分は近づかない方がいいな、とかでしょうね。と言うよりも最初の1日目にそれに気づいたんだと思う。優奈にはいつも挨拶だけでほかの話はしないようにしていたからね。」

「……………」

「本当に優奈は、今のままでいいの?このままだとずっと今のまま、卒業してお互い離れちゃうよ?」

「……………嫌………それは絶対に嫌。」



 私は、思ったよりもハッキリとその言葉が口に出た。きっと私の本心だったからだ。



「………ねぇ、良かったら1週間前に上ノ原くんと何があったのか教えてくれない?」

「…………うん。」



 私は、1週間前の光くんの運動会で起こったことを話した。

 麻美ちゃんは、そんな私の話を最後まで慌てずゆっくりと聞いてくれた。

 そして、私が話終わるとどこか呆れたようなため息を吐いた。



「はぁ〜……あなたは………何をやってるんだか。そこまで言ったのならどんなにダサくても告っちゃいなさいよ。って、まぁ、それが出来ないのが優奈だったわよね。」

「わ、私だって頑張って告白しようと思ったんだよ?でも、間が悪かったというかなんというか………」

「はいっ!もう落ち込んだりしない!」

「きゃっ!」



 私がこの前のことを思い出して落ち込んでいると麻美ちゃんが私の背中を思いっきり叩いた。



「うぅ、痛い………」

「優奈、あなたは今、落ち込んでる場合じゃないよ。」

「ふぇ?」

「優奈!今日よ!今日、告白しなさい!」

「え?………ええっ!?」

「私が2人っきりになるようにするから!もう腹を括っちゃいなさい!」



 そして、今に至る。

 結局私は、最後の最後まで勇気を出すことが出来ず告白することが出来ないまま。

 私は、2度も告白に失敗してしまっているので告白しようと思っていてもその失敗が頭に過りまた失敗してしまったらどうしようと思い、また今週みたいに気まづい関係になってしまったらどうしようとも思ってしまう。

 だから私は……



「………………帰るか。」

「…………うん。」



 そう返事してしまうのだった。

 帰りたくない。このままずっと一緒がいい。一緒にいたい。

 そんな気持ちが私の中に溢れ出してしまいそうになる。けど、どうしてもその言葉は口からはポロリと口から出てくれなかった。

 陽一くんは、きっとみんなも待っているであろう出入口の方へと足を動かした。

 私もそれについて行くため、足を動かした。

 私は、落ち込んでいたからか前を見ることが出来ず、ずっと下を向いたままだった。

 ごめんね、麻美ちゃん。約束、守れなかった。

 そう思った瞬間だった。

 私は何かにぶつかった。



「あっ、すいませ………」



 私は、下を向いていたからきっと知らない人とぶつかったのだろうと思った。だって、陽一くんは先に行っていると思ったから。

 でも、違った。

 私がぶつかったのは陽一くん本人だった。



「どうしたの?」

「…………俺、優奈に伝えたいことがあるんだ。」

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