第101話 この学校は広すぎです
「…………優奈?」
俺は、後ろから声をかけられ振り向いてみるとそこには驚いたような表情をしていた優奈が立っていた。
「ど、どうして、陽一君がここに?」
「え?あ、えっと………」
やばい。こんなところに知り合いがいるなんて思ってもいなかったから言い訳を考えてなかった。
と、とにかく適当に誤魔化そう。
「あ〜、その……親戚の子どもの運動会を見に来たんだ。優奈の方は?」
「私の方も同じ理由だよ。」
良かった〜。何とか誤魔化せた。
「それよりも陽一君、1人なの?」
「いや、親戚の親に連れて来てもらったんだけど車の駐車とかPTAへと挨拶とかでどっか行っちゃったんだ。」
「そうなんだ。だから、1人だったんだね。」
「まぁな。あ、それよりも優奈、この小学校、何度も来たことあるか?」
「何度もって訳じゃないけど2、3回程度なら来たことあるよ。」
「それならグラウンドの場所まで案内してくれないか?正直、迷っちゃって困ってたんだよ。」
「陽一君、ここに来たの初めてなんだ。確かに初めてなら迷うよね。いいよ、グラウンドの場所、案内するからついてきて。」
「ああ、ありがとう。………あ、荷物持とうか?」
「あ、ありがとう。」
俺は、優奈から重たそうな弁当の入った包みを受け取り優奈について行く。
「そういえば麗華ちゃんは来てないの?」
「あ、ああ、麗華は、今日用事があるからって来れなくて………」
「そうなんだ〜。」
信じてもらえるのには嬉しいのだが嘘をついているという罪悪感が俺の心を抉る。
でも、こんなの本当のこと言えるわけないじゃん。
そして、一番怖いのは美優が優奈と出会うことだ。たぶん、俺の優奈がこうやって歩いている姿を見たらまた闇美優が発動するだろう。それだけは絶対に避けたい。
「陽一君、着いたよ。」
「お、おぉ………」
学校もすごい広かったがグラウンドもまた広い。俺らの高校のグラウンドよりも広いぞ。
「すごいよねぇ、ここの学校。全校生徒も1000人を超えてるんだって。」
「まじか!?おいおい、なんだよこの学校………」
「私たちの学校は、全校生徒合わせてもギリギリ200人届くか届かないかぐらいだったもんね。」
「あ、ああ……」
近年、少子高齢化が進んでいるこの国でここまでの子どもを集めるなんてな。本当にすごい小学校だな。
「あ、陽一君、荷物持ってくれてありがとう。私は、お父さんが場所取りをしてくれたところに行くからもうここでいいよ。」
「そうか?なら、はい。」
「ありがとう。それじゃ、またね。」
優奈は、俺から弁当の包みを受け取り去っていった。
さて、俺は、どうしようか。俺たちのところも場所取りをしていると言っていたが………
「あ……………」
あった。あったよ。
もう見ただけで分かる。
俺が見たのは飾り付けがされている大きな板に「美優頑張れ」と書かれていたものだ。そして、そのすぐ側に美優とよく一緒にいる女の人がテントの下で折りたたみができるアウトドア用の椅子に座っていた。
美優……すまんがこれはどうしようもない。許してく………あれ?
他のところでも自分の子どもの名前を派手に飾った板に書いている親がいるな。もしかして、この学校ではこれが当たり前なのかな?
「よしっ!今回は美優ちゃんのところに負けないように応援するぜ!」
「これなら美優ちゃんの両親にも引けを取らないな!」
…………当たり前じゃなかったな。お義父さんとお義母さんがみんなを刺激してこんなことになったのか。
ま、まぁ、でも、これなら美優も特別恥ずかしがらなくてもいいよな。
そろそろテントに入ろうかな。
「おはようございます。」
「ん?あ、陽一様でしたか。おはようございます。」
「あ、別に様付けしなくていいですから。別に俺は、あなたを雇っているとかではないので。」
「そうですか。でしたら、陽一さんと呼ばせてもらいます。」
「あ、いえ、呼び捨てで構いませんよ。」
「いえ、このままでいかせてもらいます。私は、あまり人を呼び捨てにしたことがないので抵抗があるのです。」
「そういうなら……分かりました。そういえばあなたの名前は聞いていませんでしたね。教えて貰ってもいいですか?」
「私は、|園江恵子(そのえけいこ)と申します。」
「園江さんですね。分かりました。」
「あ、失礼しました。今、椅子を用意しますね。」
「いいですよ、これくらい自分でやりますから。」
「ですが……」
「大丈夫ですから。」
俺は、そう言って立て掛けていた折りたたみの椅子のどれを使っていいかを聞いてそれを広げた。
「陽一さん、これが今日のプログラムです。」
園江さんは、そう言って俺に1枚の紙を渡してくれた。その紙にはたくさんの種目名が書かれていて美優が出るところには赤マルがされてある。
「陽一さんが美優様と出る競技は、昼食の前ですね。頑張ってください。」
「ありがとうございます。美優に恥をかかせないように精一杯頑張ります。」
「その心意気です。」
その後、駐車をし終えたお義父さんとPTAに挨拶をしてきたお義母さんがテントへとやってきた。そして、すぐにアナウンスが鳴り運動会の始まりを教えてくれた。
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