第82話 これまた立派なお屋敷なことで
美優のところの車で移動すること一時間弱。
その間、俺が少しでも過去のことを思い出すため美優の俺との思い出をずっと聞いていた。だが、これと言って何かを思い出せなかった。何回か頭痛がする時があったけど前みたいな激しいやつはなかった。
「お兄ちゃん、少しでも何か記憶を取り戻すきっかけが作れたでしょうか?」
「………分からない。ごめんな、美優にいっぱい話してもらって悪かったな。」
「何を言ってるんですか。私は、お兄ちゃんのためならなんだってしますよ?」
「ありがとう、美優。ゆっくりと記憶が回復するのを待つことにしてみるよ。」
「はい、私も待ってます。」
医者の話によると俺の記憶は時間が経つにつれどんどん思い出してくるらしい。だから、別に焦る理由はないんだけど………美優にとっては俺の記憶を早く取り戻して欲しいだろう。今は、待ってるとか言ってたけど記憶がない俺では正直に言って美優の気持ちに応えられる気があまりしないのに美優もそれは分かっているだろう。
「美優お嬢様、着きました。」
俺が少し落ち込んでいると美優と一緒にいたお付きの人がそう言った。そして、お付きの人は、車から降りてわざわざ俺たちのいる後ろ側の席の扉を開けてくれた。
「ありがとう。お兄ちゃん、行きましょう。」
「あ、ああ、分かった。」
俺は、車を降りたのと同時にお付きの人に頭を下げて美優について行った。
「あれ?あの人は来ないのか?」
「車を駐車場に置いてくるだけですよ。」
「そっか……と言うよりも………ここ、どこ?」
車を降りた先は静香の家よりも大きい屋敷だった。まさかとは思うがここが美優の家なのだろうか。
「ここは、私の家ですよ。」
そのまさかだったわ。
「い、いいのか?俺がこんなすごい家に入っても。」
「何を言ってるんですか。私と結婚したらここに住まないといけないんですからね?」
「こ、ここに!?」
背中から流れる冷や汗が止まらない。
俺がこんなところに住むなんて想像が出来ない。
ってか、やっぱり想像していたけど美優ってお金持ちの家の子なんだな。俺、この1年に2軒の豪華な屋敷に入ることになるなんて……
「お兄ちゃん、どうしたんですか?」
俺が屋敷を見ながら苦笑いしていると美優がなかなか来ない俺を不思議に思ったのか声を掛けてきた。
「……い、いや、なんでもないよ。」
「そうですか?お兄ちゃん、早く入ってください。」
「あ、ああ………」
俺は、少し戸惑いながらも美優に連れられて屋敷の中へと入って行く。
そして、俺が通されたのは客間と思われる畳がひかれている部屋だ。なんだかめっちゃ日本って感じのする部屋だ。
「ここで少し待っていてください。」
「え?あ、ああ、分かった。」
美優は、俺の返事を聞くと部屋から出て行った。
「………………」
この空間で1人というのはものすごい居心地が悪い。恐らく美優が部屋から出て行ってからまだ1分も経っていないだろう。だが、今の俺にはものすごく時間が経っているように感じる。
まだか〜、美優〜。
とその瞬間、どこかから視線を感じた。
感じている視線がなんなのか気になりキョロキョロと周りを見回してみるが特に誰もいない。
だが、またも視線を感じた。
次こそはと思いくるりと背後を見る………が、誰もいない。
「………なんなんだ?」
俺は、一旦前を向こうとする。だが、その瞬間、また後ろを振り返る。今度は視線を感じたとかではなくもしかしたらいるかもしれないと思い振り返る。
「…………ぁ………」
「…………あ………」
引き戸越しに目と目が合いお互い硬直する。
目が合ったのはとても綺麗な俺よりも歳上と思える女性だった。だが、俺はその人にどこかで会ったことがあると感じた。美優の時よりは薄いがどこか既視感を覚えたのだ。
「……えっと………」
俺は、なんて言っていいか分からず戸惑ってしまう。
すると女性は見つかったからか隠れるのを諦めて引き戸を開いた。
そして、スタスタと歩いてテーブルを挟んで俺の向かい側に座った。
「あ、あの……」
俺が声を掛けようとした瞬間、また引き戸が開いた。
「お母さん!ここにいたんですか!?」
「………お母さん?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます