第30話 夢の中で
「おーい!早く来いよ!」
「ま、まって〜、お兄ちゃ〜ん!」
ん?ここは、どこだ?
あれは、海?
っ!あそこにいるのって………俺?うん、間違いない。子どものころの俺だ。あれは、小学生くらいかな?
なんだ、この夢?海に行くのが楽しみすぎて見ちゃったのか?でもなんで小学生?
あのもう一人の女の子は誰だ?お兄ちゃんと言っていたから麗華か?いや、違う。あれは、麗華じゃない。さすがに歳が離れすぎている。
なら、誰だ?
「ま、まって〜。ん〜…えいっ!」
「おっとっと。捕まっちゃったか。」
「えへへ、頑張った〜。」
「よしよし、よく頑張ったな。よし!海に行こうぜ!」
「うん!あ、でも、私泳げない……」
「そうだったな、???は、泳げなかったんだよな。」
ん?今、名前を言ったんだよな?なんて言ったんだ?
なんで名前だけよく聞き取れなかったんだ?
でも、あの子……見覚えが……
「なら、俺がこうやって手を繋いでてあげるよ!こうしてたら離れないだろ?」
「うん!絶対に離さないでよ。」
「分かってるよ。よし!行こうぜ!」
子どもの頃の俺は、誰か分からない女の子の手を繋いで海へと駆けていく。
そして、海に入ったあとは足が着く浅瀬で水を掛け合ったりしている。その際、片手はずっと握ったままであるが。
「お兄ちゃん、海の水ってしょっぱいね!」
「ああ、本当にしょっぱいな。」
「う〜、それに体もベトベトになる〜。」
「まぁ、それくらいはシャワーで流したらすぐに落ちるよ。」
「なら、お兄ちゃんも一緒に入ってね!」
「はいはい、分かってるよ。」
おいおい、何俺は誰か分からない幼女と一緒に風呂入る約束してんの!?
ま、まぁ、俺もガキだから仕方ないけど。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん、もっと奥に行ってみようよ!」
「もっと奥に行くと足がつかなくなって危ないから行くなって母さんから言われただろ?」
「大丈夫だって!お兄ちゃんがずっとこうやって手を繋いでいたら!だから、行こ!」
「ん〜、仕方ないな〜。なら、ちょっとだけだぞ。」
「わ〜い!」
待て、この展開、なんか知っているぞ。
この後、どうなるんだっけ。なんかすごいことが起きたような……
え〜と………ダメだ、思い出せない。
「うわ〜、本当に足がつかないね。」
「ああ、ちゃんと手を握っていろよ。」
「うん!」
何だか、すごい仲がいいな。こんな仲がいいのに俺は、全く覚えてない。
ん?あっ!なんかちょっと波が荒くなってないか!?
あっ!あそこに大きな波が来てるぞ!あんな波が来たらあいつらあっという間にのみ込まれるぞ!
ダメだ、あいつら遊びに夢中になりすぎて全く気づいてない!
「おい!お前ら!危ないぞ!」
俺は、そう叫ぶが全く気づかない。いや、聞こえてないのか。
そして、そのまま子どもの俺たちは、大波にのまれていくのだった。
「はっ!はぁはぁ、な、なんだったんだ、あの夢……」
俺は、大波にのみ込まれたのと同時に目覚めた。
外は、まだ日が昇ったばかりだった。
本当なら気持ちのいい朝を迎えられたのだがあの夢のせいで俺の背中はすごい汗まみれだ。
「おや、陽一君、起きたのかい?」
「あ、はい、おはようございます。」
「うん、おはよう。随分と早いね。」
「いや、今日は特別早くて、いつもはもっと遅いですよ。」
「そうなんだ。もしかしてよく眠れなかった?」
「いえ、そんなことは無いです。ちょっと海に行くのが楽しみすぎただけです。」
「そうかい、それなら良かった。」
「和博さんも随分と早いですね。」
「まぁ、僕は毎日これくらいに起きてるからね。」
「へぇ、凄いですね。」
「そろそろ二人も起きると思うよ。」
「分かりました、この後の予定ってなんですか?」
「そうだね、朝食にはまだちょっと早いから散歩なんてどうかな?朝の散歩は気持ちがいいよ。」
「あ、いいですね。」
その後、和博さんが言った通り二人ともすぐに起きた。
そして、みんな寝巻きから着替えて朝食まで散歩をした。
「ん〜、やっぱり朝の散歩は気持ちいいな。それにここは海が近いから風も気持ちいい。」
「そうね、確かに気持ちいいわ。」
海か………あの夢は、一体なんだったんだ?
それにあの女の子……
何だか、知っていそうで全く知らないような……あの景色はどこかで見たことがあるような気がする。本当にぼんやりとだけど。
でも、あの女の子は全くと言っていいほど見覚えがない。
「ねぇ、ねぇったら!」
「うわっ!?な、なんだ?」
「あんた、ボッーとしすぎ。そんな浮かない顔して何考えてんのよ?」
「ま、まぁ、俺の歳くらいになると色々と考えることがあるんだよ。」
「へぇ、色々ね。全くそんなんだからのぼせるのよ。」
「ははっ、面目ねぇ。」
まっ、今考えても仕方ないよな。もしかしたらなんでもない夢だったのかもしれないし。
その後、俺たちは散歩を終えて朝食を食べ終えて海へ遊びに行った。
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