第72話甘いものは大好きなようです
静香たちと昼食をとった後、俺は、和博さんと忍さんに促されて静香と一緒に街を散歩することになった。
「お父様とお母様ったら、いつも無理やりなんだから……」
静香は、頬を膨らませて愚痴をこぼしていた。
「ははっ、確かにな〜……」
俺も苦笑しながら頷いた。
俺が親戚回りに行くと言うことがそれほど嬉しかったのだろう。結構変なテンションになってたからな。
「……それよりも静香、ありがとな。」
「ん?なんの話?」
俺が唐突に静香にお礼を言うと静香は、小首を傾げた。
「俺が親戚回りについて行くか悩んでいた時、どうするかの判断を委ねてくれただろ?あれ、すっげぇ嬉しかった。だから、その時のお礼だよ。」
「べ、別に構わないわよ、あれくらい。私は、あんたがどうしようが気にしなかったもの。」
「それが嬉しかったんだよ。前の静香なら絶対に反対するのにそれをしないで俺に任せてくれたんだからな。」
「………も、もういいでしょ!この話は!」
静香は、俺に褒められたことが気恥ずかしくなったのか少し口元を緩めたがすぐにキュッと引き締めこの話を終わらせた。
今回は、静香が恩人だ。これ以上からかうことはしないでおこう。
「ははっ、そうだな。………あ!それよりも静香に一つ聞いておきたいことがあったんだ。」
「ん?何?」
「静香さ、俺に手紙とか送った?」
「手紙?そんなもの送った記憶ないわよ。」
「やっぱり、そうか。悪いな、変なこと聞いて。」
やっぱり、あの手紙は静香のものじゃない。
だったら、誰からの手紙なんだ?
「手紙がどうしたの?」
「いや、ちょっと色々あってな。静香じゃないなら別に大丈夫だ。」
「………もし、困ってるなら言ってきなさいよ……」
「ああ、ありがとう。頼りにしてる。」
「…………うん……」
静香は、恥ずかしそうに下を向いた。
あの手紙は、静香からじゃないとは思っていたけどこれで誰か検討が付かなくなったな。
「ねぇ、あのお店で少し休憩しない?」
静香は、いつの間にかいつも通りに戻っていて俺の服を引っ張り喫茶店を指さしながら言った。
「ん?ああ、いいぞ。」
俺が了承すると静香が俺の服を引っ張り喫茶店に近づいた。
店の中に入り店員に案内されると俺は、適当にメニューを見る。
「何頼むか決まった?」
「ん?ああ、まぁ決まったが……静香は、メニュー見なくていいのか?」
「私は、もう決まってるから。」
「そうなのか。なら、店の人を呼ぶな。」
俺は、テーブルに備わっていたベルを鳴らす。すると、すぐに店員の人が来た。
「ご注文はなんでしょうか?」
「俺は、コーヒーで。」
「私は、オレンジジュースとチョコレートパフェ。」
俺たちが注文の品を言うと店員は再度確認を取り店の奥の方へ入っていった。
「へぇ、チョコレートパフェなんて食べるんだな。」
「な、何よ……私がチョコレートパフェを食べてたらおかしいの?」
「いや、全然。可愛いと思うよ。」
「にゃ!か、可愛いとか言わないで!」
静香は、顔を赤くして噛み噛みで怒ってきた。
「別に嘘じゃないぞ?」
「っ!も、もうっ!いいから!あ、ほら、飲み物が来たわよ!」
静香の言う通り店員がお盆にコーヒーとオレンジジュースを置いて運んできていた。そして、俺たちのところに来てその飲み物を置くとまたすぐに店の奥の方へ入っていった。
俺は、コーヒーに砂糖とミルクを入れて一口飲む。
静香もオレンジジュースに刺さっているストローを口に入れ手飲んでいく。オレンジジュースが4分の1くらい無くなった頃、店員がチョコレートパフェを運んで来た。
そして、そのチョコレートパフェを静香の前に置くとすぐに引っ込む。
「ふわぁ〜………ゴクリ………い、いただきます。」
静香は、口元を緩めながらチョコレートパフェを一口食べる。
「ふにゃ〜……」
「美味しい?」
「うんっ!」
静香は、本当に幸せそうにパフェを食べる。
俺がそれをずっと見ていると静香は、俺の視線に気づいたのかパフェを食べる手を止めた。
「何?食べたいの?」
「ん?………まぁ、美味そうだなとは思ってる。」
「…………仕方ないわね。ほら、一口だけよ。」
静香は、そう言ってスプーンで一口分取り、俺の口元に寄せる。
これはいわゆるあ〜んというやつなのだろうか。でも、本人は気づいていなさそうだな。もし、これを言ってしまうと怒ってしまいそうなので言うのはやめておこう。
「何してるのよ?早くして。」
「あ、ああ、それじゃ、いただきます。」
俺は、素直に差し出されたパフェを食べる。
「うん、美味い。」
「でしょ?やっぱり甘いものはいいよね。」
「静香は、甘いものが好きなんだな。」
「まぁ、嫌いではないわね。」
素直に好きって言えばいいのに。
まぁ、素直に言えないのが静香だよな。
それから静香がチョコレートパフェを食べ終わるのを俺は、コーヒーを飲みながら待つ。静香が一口一口、味わって食べるので1時間ほど居座ってしまった。まぁ、すごい美味しそうに食べていたので不満なんかない。それどころかあまりにも美味しそうなので今度俺も頼もうかと思った。またいつか、麗華か優奈を誘ってきてみようかな。
「それじゃ、そろそろ行くか。」
「ええ、そうね。」
俺たちは、喫茶店を出る。
「もう帰ろうか。」
「そうね、もういい時間だし。」
俺たちは、それから世間話でもしながら静香の家へと戻る。
「………あ、トイレしたい。」
「ったく、早く行ってきなさい。」
「ははっ、悪いな。ちょっと待っててくれ。」
俺は、急に襲ってきた尿意を漏らさないように我慢しながら近くのトイレがある公園に向かった。
そして、そこで出したいものを出してスッキリする。
「ふぅ〜……スッキリした〜。」
俺は、手を洗い持ってきていたハンカチで手を拭う。
静香が待ってるから早く戻らないといけないと思いトイレをすぐに出る。すると公園の出入口に今さっきはなかった黒い車があった。
なんだろう?と思ったが別に気にすることはなかったので無視して通り過ぎようとした瞬間、車の扉が開き静香と同じくらいの年齢の女の子が出てきた。
…………どこかで会ったことがあるような……
俺は、そんな違和感を覚えてしまいその子を見つめてしまう。
女の子もなぜか俺の方をじっと見ていた。そして、その女の子はゆっくりと口を開き
「………お兄ちゃん………」
俺に向かってそう言った。
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