(9)


「と、とぼけてないって。マジでわけわかんないんだよ。ビジョン? 故郷? とにかくいろいろ説明してくれないか?」

「ほんと、さっきからうるさいわね。説明だったら、『そっちの人たち』にたっぷりしてもらいなさいよ。……いえ、むしろあなたが『する側』かしら」

 彼女が『そっち』を指差す。

 その時、けたたましいサイレンの音がした。

 驚いて向き直ると、黒いワゴン車のような乗り物がベランダの前に横付けしていた。プロペラや羽はないが、空中でホバリングしている。機体の周囲で魔法陣のようなものが光っている。魔法の力で浮いてるのだろうか?

 その車両のドアがサッとスライドした。

 車両の中。黒いボディスーツを着た男が、こちらに銃のようなものを向け、構えていた。

 男は体格がよく、頭に鬼のような一本の角が生えている。その構えた銃の周囲には、小さな色とりどりの半透明なパネルが浮いている。

「ひ、ひいっ!」

「通報があった。住居侵入の現行犯で逮捕する。おとなしく武器を置いて両手を上げろ」

 男は重く低い声で警告してくる。

 車体の側面に、赤く点滅している文字。見たことのない文字だったが、不思議と意味がわかった。これも勇者の力だろう。

「け……『けいさつ』って書いてるけど? 異世界なのに? なんで?」

 じゃあ、あの鬼みたいな男が警察官ってことか?

 俺の異世界に対するイメージが次々と壊され面食らうが、今はいちいち気にしていられない。とりあえず言うことを聞いて、敵意がないことをアピールした方がよさそうだ。

 両手を上げ、言われた通りに武器を……。

 ……あれ、俺、武器なんて持ってたっけ?

『勇者様、ここはボクに任せるです』

 その時、ガドッシュが念話で語りかけてきた。

 あ、そうだった。こいつ剣だった。背中に差してるから、わからなくなるな。

「ガドッシュ、お前さっきからどうして黙ってたんだよ?」

 声を潜めて尋ねる。

『す、すみません。ちょっと頭が真っ白になってたのです。ボクも女神様からは転移先のことを聞いてなくて、状況がさっぱりで……』

 どうやらこの相棒も、俺と同様に混乱していたらしい。

「で、お前に任せるったって、どうするつもりだよ?」

 相手はモンスターじゃないし、戦うわけにもいかないのだが。

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