(4)
学園校舎は同じ構造の建物が三棟縦並びになっており、それらは数本の渡り廊下で繋がっている。
手前から、小、中、高等部。
校舎内は学校というより、近代的な商業ビルみたいな構造だった。中央が吹き抜けになっていて、一階のロビーから見上げると、クリスタル製の半透明の通路や手すり、あるいはいくつもの白いドアが四方をぐるりと囲み、それが天井まで何層にも続いている。オレンジ色に輝くその天井からは、乱反射した陽光があちこちに射し、万華鏡の中にいるような気分になった。
三棟の内装は少しずつ異なっている。
小等部はロビーの床の表面にクッション性の良い素材を使っているし、アスレチックのような奇抜な遊具がそこかしこに置かれている。
中等部は中央に背の高い大樹が植えられていて、天体模型のようなものや、鳥などの動物の模型が、魔法か何かの力で宙にたくさん浮いている。
そして高等部は、床が大理石のように白くなめらかで、そこかしこにベンチや、ヤシに似た鉢植えの木、華やかな花々が置かれ、なんだかおしゃれで落ち着いた雰囲気を醸していた。
そのロビーでは、俺と同じ紺色のボディスーツを着た生徒たちが歩いている。ベンチでは種族の異なる男女が座って談笑していたり、羽の生えた種族の女子が、並んで上階の手すりに腰かけ、ガールズトークをしていたり。
「これが異世界の学校の朝か」
ほとんどの生徒が二足歩行だが、その中に『人間』はいない。
アッシュさんから聞いた話によると、ヒト族という種族も存在するらしいが、俺とは外見が少し異なるそうだ。彼らは髪の青みが強く、手足の指の付け根にカエルに似た水かきがあるらしい。つまり歴とした『人間』は、この中で俺一人ということだ。
トパ・オク先生が歩きながら話す。
「履修登録は来週末まで。選択科目はなるべく多く受けてみてから選択することをお勧めしましゅ。全部は難しいかもしれましぇんけどね」
履修登録はマギパッドを使用して生徒本人が行う。学園のポータルサイト的なものがあって、そこに履修登録用の窓口があるのだ。
「さて、もう少しでHR《ホームルーム》が始まりましゅ。本当は事務室と職員室も案内したかったのでしゅが、遅くなったので放課後にしましょう。あるいは、誰か別の人に案内してもらってくだしゃい」
「す、すみません、遅れちゃって」
責められると思い謝ったが、
「謝る必要はありましぇん。わたくしはあなたが欠席する可能性すら考慮していましたし。事実、HRの時刻になったら、あの場を離れる予定でしたよ」
先生は当然のごとくさらりと応えた。
「学園の基本理念を忘れずに。生徒たちそれぞれの判断に、わたくしたち教員はとやかく言う必要はないと考えましゅ。ただ、生きるうえでの先輩としてサポートをするだけでしゅ」
「そ、そうっすか?」
よくわからないが、とりあえず時間に遅れたことを怒るつもりはないようだ。
ラッキー?
先生とともに訪れたのは五階。一年生フロアの最上階らしい。ちなみに全部で十一階まであり、六階からは二年生のクラス。
吹き抜けになっているので、中央の空洞を挟んで向こうにある教室や、その上の二年生フロアが見渡せる。上から声をかけてくる生徒に、先生が手を振ってあいさつする。
「……あ、そういえば学長から、伝言を預かっていましゅ」
先生はふと思い出したように手を叩いた。
「伝言?」
「アッシュ学長は今日から理事長と一緒に長期出張だそうで。行き先は確か火の国『エリフレ』でしたか。あなたの初登校日に立ち会えなくて、残念がっているようでした」
「エリフレ……?」
火の国、か。どんなところだろう。すげえ気になる。
だが尋ねる間もなく、先生は続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます