(5)
用件は、要約すると二つだった。
一つ、困ったことがあれば、アギーという生徒を頼るといい。
二つ、ピクシー族には気をつけた方がいい。
……アギーだとかピクシーだとか言われても、どうしたものやら。
首を傾げていると、先生はさらに続けた。
「あと加えて、シャルロッテ理事長からも伝言がありましゅ」
「え、理事長?」
一つ、特定種族に偏見を持たせるような大人の発言は無視しろ。
俺はアッシュさんに少し同情しながら、その伝言を聞いていた。
つまり、『ピクシー族に気をつけろ』というその発言を無視しろ、という意味だろうか?
いったいどっちの言うことを聞けばいいのやら……。
「あら、もう時間でしゅね」
助言を求めたかったが、先生はくねくねと早足で歩いていく。俺は急いで追いかけた。
「教室に入ったら、みんなに自己紹介をしてくだしゃい。今日は一限目から選択科目で教室移動になりましゅが、まあ、なんとか馴染んでくだしゃい。わからないことは、それこそアギーさんあたりに訊くのがいいでしゅ。先生はすぐに、別の教室の授業に向かいましゅので」
教室が近づいてくるにつれ、転校生的なドキドキで胸がはちきれそうになる。
「そ、そのアギーって? どんな奴っすか?」
「とても責任感のある素晴らしい生徒でしゅよ」
先生は『1U』と記載された白いスライドドアの前で立ち止まった。五階の右側、手前から三番目にある教室だ。
その『1U』が、俺が所属することになるクラスらしい。
「あと、アギーはアッシュ学長のお孫さんでしゅ」
「えっ? マジですか?」
「マジでしゅ」
「そうっすか。そりゃちょっと安心っすね」
アッシュさんの孫、か。きっと良い奴に違いないな。
「さあ入りましゅよ」
先生は吸盤だらけの手でドアのセンサーに触れた。
俺はごくりと唾をのんだ。
ドアがすっとスライドし、室内のざわめきが聞こえる。
チョー逃げ出したい……。
先に先生が中へ入り、
「みなさん、おはようございましゅ。HRの前に、転入生の紹介をしましゅ。ツヨシ君、入っていいでしゅよ」
教壇から呼ぶ。
途端に足が震え、鼓動がうるさくなった。なんか吐きそうだ。
くそ、俺は勇者なんだ。こんなことで尻込みしてどうする!
俺はなんとか前へと踏み出した。一歩出たら二歩、三歩と歩かざるを得ない。結果的に、先生の横に立つことができた。そして、これからクラスメイトとなるメンツに顔を向けた。
みんなが俺を見ている。
机の配置は教壇を囲むように『Π』の字。様々な種族の顔が、前方と左右から俺に向けられている。
「は、はじめまして──」
と、ガチガチに震えながら自己紹介しようとした、その時だった。
「うそでしょ!?」
突然、悲鳴にも似た声を発して椅子から立ち上がる生徒がいた。
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