(3)
「相変わらず、すごい校舎だよなあ……」
校門の前に立ち、俺は呟いた。
真っ白な高い塀に囲まれた、だだっ広く奥行きのある敷地。そのほぼ全面を、青々とした芝生が埋め尽くしている。それが前庭だ。
そして奥にそびえ立つ背の高い校舎。
外から見ただけでは何階建てかもわからない、カクカクした奇怪な造形。壁は特殊なクリスタルを使用しているらしく、陽光を反射してオレンジ色にきらきらと光り、建物そのものが巨大な宝石のようだ。ところどころ、外向きのバルコニーが木の枝のように左右から突き出ている。
どこかの専門学校が進化したら、こんな感じの外観になるだろうか。
さて、と敷地に足を踏み入れる寸前、門の手前に立っていた人物に声をかけられた。
「あなたがツヨシ君?」
もしかしてと思いつつ、わざと目を合わせなかったのだが……嫌な予感は的中した。
「わたくしが担任になるトパ・オクでしゅ。約束の時間、十分過ぎてましゅよ」
「す、すみません」
できれば人違いであってほしかった。
どんな先生だろうかと期待していた分、ギャップに面食らった。
トパ・オク先生は、ショッキングピンクのボディスーツに包まれた『これぞ黄金比』というような抜群のスタイルで、目はくりくりと丸く、おちょぼ口がキュートで、頭の色は赤褐色。片手でばららっとかき上げた長い髪──というか触手には、それぞれに無数の吸盤が連なっている。
一言で表すと、俺の担任の先生は『体は人で頭はタコ』というタコ人間だった。
「ど、どうも、ワダツヨシデス……」
おずおずとあいさつすると、
「危険でしゅ」
先生は唐突に言った。口の構造のせいで赤ちゃん言葉のような発音になっている。声がすごく色っぽくて女性的なだけに、いろいろと残念だ。
「犯罪者が生徒だなんて、やっぱり危険でしゅ。若い性衝動に任せて、今にもこの肉体を貪ろうと企んでいる、そんな顔に見えましゅ」
「それは違います」
即座に否定した。仮にも相手は生徒だというのに何を言ってるんだ、このタコは。
「本当に違いましゅか?」
先生は無駄にセクシーなその体を、自分の腕と触手でぎゅっと抱く。
何度でも答えよう。
「はい、断じて」
刺身や唐揚げであっても、貪るのは遠慮したいです。
魚人族ばかりの地元ではモテすぎて困っていたというトパ・オク先生の自慢話を聞きながら、校舎に入った。
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