第二章 渡る異世界は鬼ばかり?(1)


 翌朝。

 といっても、出所した当日の昼に現実世界へ一度戻っているので、体感としては四日後の朝なのだが。

「やっべえ、寝坊した!」

 異世界学園生活初日だというのに、俺はあろうことか寝過ごし、ベッド代わりの寝ぶくろ姿で飛び起きた。昨夜は不安で眠れなかったこともあり、学園のことや更生プログラムの規則などをいろいろと読んで調べ、寝るのが遅くなったのだった。

 予定では少し早く登校し、担任となる『トパ・オク』というネットオークションみたいな名前の先生と顔合わせすることになっていた。

 昨日の午後に学園の下見と学生登録をしに行った際には、その先生が授業中で会えなかったため、アッシュさんを通じて約束していたのだ。

 ……その約束の時刻まで、なんとあと二分だ。

「ぬおおおおっ」

 着慣れない制服に手こずって転びそうになる。こういう時は足の小指をぶつけるのが定番だが、悲しいことにこの部屋には家具の類がなく、その心配は不要だ。

 学園の制服は、これまた例のボディスーツ型。明るめの紺色に、差し色でところどころに白が使われている。ぴっちりしたダイバースーツみたいで、そのまま外に出るのは少し恥ずかしいが、そんなことを言っている場合ではない。

 殺風景な部屋を飛び出し、建物内の階段を全段とばす。

「こういう時、勇者の体は便利だな!」

 本来の用途とは別だがそれは置いといて、どん、と着地しても脚にダメージはまったくなかった。さすがだ。

 外に出て、コリンさんが所属する『ムエロ第一警察署』の前を横切る。ネウトラで一、二を争う規模の警察署らしい。

 ちなみに俺に与えられたアパートは、元は警察官の寮だったという。かなり昔に巨大岩石を魔法で削って造ったと言われる建物で、どこもかしこも目の粗い石壁でできている。見た目からしてもかなり古い。

 今は財団の持ち物になっているらしく、俺はその一部屋を一時的に借りているわけだ。

 ダッシュで最寄りの『転移魔法テレポートステーション』に到着する。

 テレポートステーションは一般的に『テレステ』と呼ばれるバスの待合所みたいな所だ。その部屋に入ると魔法『テレポート』の使用制限が解除され、ネウトラ国内各地のテレステに瞬間移動できるようになる。

「こっちが転入……だよな?」

 テレステの屋根を囲む青い標識を確認し、十数人いる行列の最後尾に並んだ。

 通路を挟んで少し離れた位置に、赤い標識のテレステがもう一つ設置されている。その中からいろんな種族の人たちが次々と出てくる。

 そちらが転出口だ。

 出入を同じ場所にすると、テレポートした者同士が衝突し合い、エラーだらけで大惨事になるという理由で別れているそうだ。そういう問題も含め、個人のテレポートには厳重な使用制限がかけられている。

 行列はどんどん前へ進んでいく。俺も他の人にならい、左手首に装着したマギパッドを慌てて操作する。

 ──そう、俺は現在、マギパッドと呼ばれるそれを装着している。

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