(4)
「そうか、ご苦労だな」
コリンさんは知っている顔のようで、ややフランクな感じに応えた。
そして親指で男を示しながら、俺に言った。
「そうそう、彼に礼を言っておけよツヨシ。彼がいなかったら、今ごろきみは同僚たちと一緒に、マナを吸い尽くされてダウンしてるところだったんだぞ」
だから、誰? 彼が何して、俺がどうなってたって?
「ええっと……?」
話が見えないんですけど。
「しかし良いタイミングでした。あの魔獣は進化をしようとしている最中のように見えましたから、その前に倒せたのは運がいい」
「なるほど。頑丈な体だけでなく、強運の持ち主でもあるということか。ツヨシは」
男が口を挟み、コリンさんが笑う。
「……あの、進化の最中って、どういうことっすか」
あのマンイーターは進化の最中じゃなくて、進化後じゃないのか?
状況が呑み込めずに尋ねると、
「きみは見なかった? あの膨大なマナを含んだ強烈な光をさ」
男が即答した。お兄さんが子供を相手に喋っているような口調だった。俺に対しては敬語を使わないと判断したらしい。
「あの光がそうだったのか?」
コリンさんが尋ねる。
あの光って、どの光のこと?
「はい。自分も初見だったのですが、かつては進化を繰り返す魔獣がいたという話を耳にしたことがあります。もしも進化が完了してしまっていたら、おそらく殲滅にはもう少し時間を要したでしょう。彼も無事ではなかったかもしれません」
男が俺の方をちらりと見て言う。
んんん? 何か話が整理できてないんだけど?
俺が現実世界に戻ってる間に何かあったのか?
「ふ、だがその一歩手前で、到着するなり槍の一撃で殲滅したというわけか」
コリンさんは言いながら、地面に突き立っている巨大槍を一瞥する。
「きみの観察眼と決断力には脱帽せざるを得ないな。さすがは『対策部隊』のエースだ」
そして賞賛の言葉を述べる。
俺でなく、名も知らぬ男に。
対策部隊のエースとかいうその男に。
「自分はただ、やるべき時にやるべき仕事をしただけです。むしろ評価されるべきは、医務室から通報をした作業員のほうでしょう。体内マナが尽きようというぎりぎりの中で、外に出た同僚たちが帰って来ないことを案じ、行動を起こしたのですから。その彼の決断がなければ、自分どもはいまだここに到着してませんし、魔獣は野放しだったでしょう」
やっと話が読めてきたが、どうやら嫌な方向に進んでいる。
「いやいや、野放しとかじゃなくて──」
口を挟もうとしたが、コリンさんがそれを遮る。
「それもそうか。よし、あとでその同僚にも礼を言っておくといい」
「ちょ、ちょっと待ってくださいって!」
たまらず俺は声を上げた。
理事長から学んだのだ。ここで黙っていたら、俺は、俺は……!
「あれを倒したのは……もしかしてこの人ってことになってるんすか? その、俺じゃなくて?」
それでも一応の冷静を保ったまま、なんとか尋ねることができた。
本当なら、
「あのマンイーターは俺が倒したんすよ! 世界を救ったのは勇者である俺なんすよ! 俺、俺、俺だから! そいつじゃねえから!」
と猛アピールしたかったが、さすがに見苦しいだろうと慎んだ。
そんな場合ではない気もするが、少しでも美学を貫きたかったのだ。
大丈夫、俺があれを倒したのだ。ガドもそう言っていたじゃないか。
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