(3)


 めまいがおさまり、最初に目についたのは、峡谷の地面に逆さまに突き立っている巨大な二又の槍だった。地表に出ている部分だけでも、長さ5、6メートルはあるだろう。

 異世界から現実に戻る際にはなかったものだ。

「来たか、ツヨシ」

 背後から声がした。振り返ると、なぜかコリンさんがそこにいた。

 その奥で、黒地に深紅というマグマみたいなカラーリングのボディスーツを着た、ものものしい感じの男たちが数人いた。魔法の担架のようなものでガドを運んでいる。人型のまま満足げな顔で寝入っていて、幸せそうだった。

「どこに連れていくんですか?」

 俺はそんなガドを指差して尋ねる。

「とりあえず医務室だ。だがすぐに宇宙船に運ぶ。何はともあれ、この重力下だと、居るだけで体に障るからな。人数が揃い次第、私たちもそれに乗るぞ」

 コリンさんが言うには、親方や先輩たちも無事に救助されたらしい。体内マナを失って気絶しているだけなので、一刻を争う事態というわけではないようだ。コリンさんもかつて、過酷な訓練によって何回かマナを消失して倒れたことがあるそうで、その言葉には説得力があり、俺は安心した。

 ガドの正体も気づかれていないようだった。まあ、今となってはバレてもいいような気がするが。

 なんたって、俺たちは世界を救ったんだからな。

「コリンさんは、どうしてここに?」

 とはいえ、いきなり「俺、世界救ったんだぜ」というアピールをするのはダサいから、なにげない会話で、相手から今回の件について尋ねてくるのを待つ。

 英雄の美学ってやつかな。

 そう考えたら、最初にガドッシュのことを尋ねたのも正解だったな。『魔王を倒した勇者が、捕われのお姫様の体調を気づかう』みたいな感じでクールだ。

 コリンさんはいつもの調子で淡々と答える。

「仕事だ。きみが魔鉱山を出たのを監視魔法で確認した。しばらく様子を見ていたが、なかなか戻らないようだったから心配で、様子を見に来たのだ」

 わざわざ宇宙まで、俺のために来たらしい。

「連絡がつながらんとは思っていたが、まさか魔獣に襲われているとは思いもしなかった。きみに対する監視魔法や通信魔法の接続が不安定だったのも、そのせいだったのだろう」

「すみません」

 よく見たら、マギパッドにコリンさんからの着信があった。戦っていたせいで全然気づかなかった。とりあえず謝るが、コリンさんに咎める様子はない。

 そうでしょうとも。

 俺がその『魔獣』と戦い、倒すとも思わなかったでしょう。

 コリンさんから『魔獣』という単語が出たということは、彼女はここにあの巨大マンイーターがいたことを知っているってことで。

 きっと、どこかから俺の戦いを見ていたのだ。

 ラッキー。がぜん、嬉しい展開だ。今ばかりは、監視システムにありがとう。警察官が証言するなら、みんなが俺の活躍を信じるに決まってる。

「しかし……なかなかどうして、体だけは丈夫な奴だな、きみは」

 だがコリンさんの顔は、いつもの見慣れた呆れ顔。

「はは……」

 体だけは? いやいや、『だけ』ってあなた。

 他にもっと賞賛するところあるでしょうが。

 そわそわしながら次の言葉を待っていると、

「アゾティスさん、被害者の搬送がそろそろ終わります」

 一人の男が声をかけてきた。

 アゾティス? ──ああ、コリンさんのラストネームか。

 そいつは身長二メートル半くらいの大男だった。格闘家みたいに引き締まった体に、他の連中と同じマグマカラーのボディスーツ。外に出ている顔や手の肌の表面は、ワニを思わせるうろこで覆われており、背中には竜のような翼が生えている。

 竜人族、だろうか。

 ……でも、誰?

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