(5)


「は、はははは!」

 すると男が大笑いしだした。コリンさんは、苦笑いを浮かべている。

「何をわけのわからんことをほざいているのだ、きみは。 ──ああ、そうか。きみは十分間この場にいなかったから、混乱してるのだろう」

 あ、これ決定的だ。

 信じたくなかったが、やっぱりだ。

 この二人、俺があのマンイーターを倒しただなんて、微塵も思ってない。

「いや、勘違いですって! 確かに十分間だけ消えてましたけど、その前に俺があいつを魔法で──」

 もはや美学なんてかなぐり捨てて抗議しようとした時、俺の顔に銃口が向けられた。

 正確には銃でなく、コリンさんのマギパッド・モデルBだが。

「口を慎め。たとえ戯言とわかっていても、それ以上は聞くに堪えん。不愉快だ」

 低く、どすの利いた声だった。

「う……」

 嘘だろ。

 コリンさんの脅しに対し、俺は言葉を呑んだ。

 引き下がるしかないのか?

 ……いや、納得いかない。

 でも、言われてみれば、俺があのマンイーターを倒したという証拠を見せるのは難しく、戯言だと思われるのも当然かもしれない。俺が異世界から来た勇者であるか否か、という問題と同じように、それをこの場で平和的に証明する方法が思いつかない。

 残念ながらガドの言葉だって証明にはならない。

 そんな状況でも──もしかしたら再逮捕される可能性があったとしても、抗うべきか?

 迷ったその時、男のマギパッドが音を発した。通信魔法の着信だ。

『被害者全員の搬送が完了した。そろそろ戻れ』

「了解です」

 男がその相手の声に応じると、すぐに通信は切れた。

「終わったか。……私たちも戻らないとまずいな」

 コリンさんは無言の俺を一瞥すると、モデルBを消去して言った。

「だが、ちょっとだけいいか?」

「どうしました?」

 男の問いに、コリンさんは少しだけ照れ笑いを浮かべた。

「ハトラに来るのは久しぶりなのだ。めったに来られるものでもないし、せっかくだから少し記念撮影していってもいいか?」

 俺はずっこけそうになった。

「もちろんです」

 男が言い終わるのを待たず、コリンさんは高ぶった様子でマギパッドを操作し、静止画撮影用のパネルを出現させた。

「撮りますか?」

 嬉しそうな顔でカシャカシャと景色を撮影するコリンさんに男が尋ねる。

「いいか? すまないな」

 コリンさんはカメラを手渡すかのように、パネルを男に預けた。ハトラ、アイザ峡谷の景色をバックに、彼女は軽くポーズをとって写真におさまる。俺に銃口を向けていた人とは思えない。

 ……勝手にやってくれ。

 その姿に、抗議する気も失せた。命懸けの功績を無下にされた怒りは湧いているものの、言ってどうにかなる相手でもないだろうし。

 あるかどうかわからないが、次の機会を待とう。

 俺は煮え切らないもやもやを必死に胸の奥に押し下げた。二人のやり取りにはそっぽを向き、蚊帳の外に徹していた。

 ──つもりだったのだが。

 ふいに俺の目の前に、パネルが差し出された。

 見た感じ、それはタブレット端末のカメラアプリの起動画面に似ていた。

「……え?」

「ツヨシ、ササっと撮ってくれないか」

「は?」

 反射的にそれを受け取り、そちらを向いてみれば。

 巨大槍を背景に二人が並んで立ち、和気あいあいとスタンバイしていた。

「いやあ、『赤髪の鬼神』と呼ばれたあなたと一緒だなんて、光栄です」

「そんな古いあだ名はよせ。それより、これは記念撮影なのだから、そういう苦しそうな顔で写ってくれるなよ。もう重力差でへばったのか?」

「アゾティスさんこそ、笑顔が引きつってますよ。無理なさらずに、等身大で写っては?」

「ふっ、ほざけ」

 今まで気がつかなかったが、よくよく見てみれば、二人とも同じくらい顔がしんどそうだった。かなり鍛えていそうに思える彼らでも、ハトラの重力はきついらしい。

 が、そんなのどうでもいい。

 怒りで手が震えてくる。

 今の俺に、お前らを撮れってか。ちくしょう。

「皆をこれ以上待たせるのも悪いからな、さあ、早く撮ってくれ!」

 コリンさんは俺の様子など眼中にないみたいだった。

 今すぐパネルを真っ二つに膝で折ってしまいたかったが(物理的に可能か不明だが)、今回は身を引くと決めたので懸命に耐える。

 でも悔しくて、泣きそうになった。

 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう……! 手ブレしても知らねえからな……!

 俺は奥歯をきつく噛みしめて涙をこらえながら、撮影ボタンをタッチした。


   ×××

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