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 サームへと帰るゴンドラの中で、俺はコリンさんたちの話を聞いた。本当は話もしたくなかったが、同じゴンドラで近くの席に座られてしまったので、そうならざるを得なかった。

 話によると『対策部隊』というのはネウトラの国家公務員だそうだ。魔獣と呼ばれる存在を駆除するだけでなく、出現を未然に防ぐ方法を考えたり、魔獣のデータサンプルを採ったり、被害に遭った一般人を救助、保護したりだとか、そういった魔獣に係わる対策全般を専門とした仕事なので、そう名付けられたそうだ。

 そもそも魔獣とは何なのかという話だが、あのマンイーターのように白と紫の縞模様をした生き物をそう呼ぶらしい。それこそ世界にとっての脅威で、勇者になった俺が倒すべき敵じゃないのかと思ったが……そう単純な話ではなかった。

 魔獣の生態は、いまだ解明されていない部分が多いらしいが、マナの濃度が高い場所に生まれることは統計的にわかっているらしい。

 だからマセキの採石場があるハトラに出現する確率が高いのは必然的で、ハトラが危険な場所だと言われるのは、そのためだ。他の惑星や、何もない宇宙空間に出現する場合もあるので、対策部隊は専用の宇宙ステーションに常駐し、その動向をチェックしている。

 魔獣はまれに、宇宙空間を突っ切ってサームに降りてくることもある。だからサームにも対策部隊員が控えているらしい。

 だがそんなに準備しているにも係わらず、魔獣の出現率はそれほど高くない。

 しかも通常、すぐに駆除できてしまうそうだ。

 今回のように、植物みたいな外見で、かつマナドレイン能力がある魔獣は相当なレアケースだったらしいが、

「まあ、連中にとっては朝飯前だったわけだな」

 コリンさんは笑ってそう言った。

 部隊員のほとんどは戦闘を得意とする種族の中でも指折りのエリートで、めちゃくちゃ強い。

 彼らにとっては魔獣なんて、さながら山から街におりてきた野生の鹿や猪か、あるいはせいぜい熊か、その程度の危険度しかないのだ。

 そういう認識はサームに住む一般市民も同じらしく、事実、対策部隊が正式に発足してからは、市民が魔獣の被害に遭うケースはほぼゼロ。

 コリンさんもかつては対策部隊員として働いていたが、そんな状況に味気なさを感じて警察官になったのだとか。

 …………。

 俺はその程度のものを世界の危機と勘違いして、全力で戦っていたっていうのか?

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