(8)


 気持ちいいくらいに敵を倒していく。

 右、正面、左、また右。上段から斬り落とし、さらに斬り上げ、そして回転斬り。

 羽のように軽いガドッシュを、勇者の体でもって振るうからこそできる芸当だろう。

 敵の動きもよく見える。気配を感じる。これも勇者の力なのだろうか。一瞬にして剣豪のスイッチが入った──そんな感覚だった。

「ヒャッハー!」

 めちゃくちゃ楽しいぜ!

 すっかりテンションが上がっていた。脳からアドレナリンが湧き出ているのがよくわかる。

 俺が異世界での冒険で憧れていた要素の一つに、『モンスターを剣で倒す』というものがある。それがようやく実現した。しかもこんなにたくさん敵がいる。これぞ『無双』って感じで、そりゃあもう楽しかった。

 ……どれくらいの間、そうして戦っていただろうか。

「なあ、ガドッシュ」

「なんですか?」

 首を五本ほど一気に飛ばしながら、俺はふと気になったことを口にした。

「さっきから、どんどん増えてねえ? ていうか、終わらなくね?」

「勇者様も、そう思うですか」

 どうやらガドッシュも気づいていたらしい。

 ふと冷静になって敵から距離をとってみると、

「もう百や二百の次元ではないですね。軽く千を超えてるです」

 目の前には数えきれないキノコの大群。白と紫の縞模様をしたそれが、ところせましと密集し、蠢いている。

 現実世界で、たまたま学校の全校集会を一番後ろの隅で眺める機会があったが、それを圧倒的に上回る頭数とインパクトだった。

 そしてその内の半分くらいが、ちまちまと俺のマナを吸い上げている。

 俺が持つマナの量は膨大だと聞かされてはいるが、さすがに底なしというわけではないだろう。

 もしこのまま敵が増え続けたら……?

「これって、やばくねえか?」

「……」

 ガドッシュの沈黙が答えだった。

 キャャアア!

 その時、キノコたちが一斉に金切り声を上げた。不協和音の大合唱に空気が震える。

「な、なんだ?」

 大群が緑色に発光し始めた。マナの色だ。

 何が起きようというのか。身構えた次の瞬間、群れがぐねぐねと自ら絡み合い、極太の綱を巻くようにその中心に集束していく。竜巻のごとく、それは空に向かって巨大に膨れ上がっていく。

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