(10)


 巨大触手キノコがその首をもたげ、俺の方を向いていた。

 どぎつい模様の傘の中心がばっくりと四つに割れ、真っ赤な口が現れた。白く鋭い牙が生えていて、中央にはゾウさえ軽く丸呑みにできそうなほどの大きくて暗く深い消化穴が空いている。

 巨大キノコは、その触手だらけの胴をしならせるように折り曲げ、矢を打ち出すようにして、一直線に俺を目がけて襲いかかる。。

「う、うわああ!」

 エイリアンを思わせる口が迫ってくる。

 やべえ。やばすぎる。

 巨大すぎるその口は、俺の視野を赤く占領していく。

 死ぬ、食われる────そう直感した時、俺は立ちすくみ、その光景をなかば放心状態で眺めていた。

「勇者様! 左に跳ぶのです、そして地面に身を伏せるのです!」 

 その時、ガドッシュの声が突き刺さった。次の瞬間、恐怖で動けないと思っていた体が、勝手に地面を蹴っていた。気にかける余裕はなかったが、黄色い光が見えたように感じた。

 ヘッドスライディングの要領で滑りこみ、地面を転がった。

 ごうっ! という風圧とともに、巨大な口がすぐ横を通過し、ばくんっと閉じられた。

「うぷっ」

 顔や腕に水が飛んできた。酸っぱい感じの臭いがする。おそらくこいつの口から漏れた唾液だ。

 間一髪だった。

「すぐ立つのです! 走ってなるべく距離をとり、体勢を立て直すのです!」

 ガドッシュがまた叫ぶ。

「あ、ああ、わかった!」

 今度は返事をし、俺は急いで立ち上がった。数歩バックステップを踏み、回れ右をして走った。何度も敵を振り返った。

 二、三秒遅れていたら、きっとやばかった。ぶっとい胴体に生えている触手の数々が伸びてきて、さっきまで俺が倒れていた場所に突進していた。

 よく見ると触手にも口がついていた。ぎょろりとしたもついていて、大蛇のようなそれらはその一眼で、俺をうらめしげに睨んでいた。

「『マンイーター』という植物系のモンスターですね。聖剣の先輩たちから聞いていたやつよりずっと巨大ですけど」

「マンイーター? の間違いだろ?」

「名前など何だっていいのです。肝心なのは、あれを倒すことです」

「……」

 巨大マンイーターは、ずるずると重そうな胴を引きずり、元の体勢に戻ろうとしているようだった。

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