(11)


 あれを……倒す、か。

 サイズも攻撃力も、さっきまでとはわけが違う。ガドッシュの『聖なる無限残撃ホーリー・インフィニティをもってしても、かすり傷程度のダメージしか与えられないんじゃないか?

「まだ攻撃体勢に入っていない今が好機です。行くのです、勇者様!」

「い……」

 行くのですって言われてもよ……。

 あのでかい口、見ただろ。次にもしも避けられなかったらどうするんだよ。攻撃しても致命傷を与えられず、逆に触手に捕まったらどうなる。そのまま口の中に放り込まれちまうんじゃないか? 

 気づけば、膝がカタカタと笑っていた。巨大すぎる敵を前に、手が震えはじめた。

「勇者様、今を逃してはいけないのです!」

 再びガドッシュがあおる。

 わかってる。わかってるけどさ。

 怖い。

 怖いんだよ。

 意地とか見栄とか勢いなんかで、どうにかなるレベルじゃないって。

 俺だって異世界に来た以上、こういうことはなんとなく覚悟してたさ。むしろ望むところだとわくわくしてた。怖いなんて言ったら、今さらだよな。

 だがいきなりこんな大ボスと戦うのは想定外だった。重力負荷が小さいサームなら勇者の身体能力をフルに使えるだろうが、ここはハトラだし……。

 戦ってはいけないと思う理由が、ひとつ、またひとつと出てくる。

 その時だった。

 俺の体が黄色い光に包まれた。

「ま、また出た……!」

 案の定、足が勝手に一歩、二歩と前に出る。そしてドタドタと不格好な感じで走りはじめる!

「と、止まってくれえ!」

 俺は涙目になって叫んだ。前から思ってたけど、何なんだよ、これ!?

 ガドッシュが冷静な感じで言う。

「いずれ止まるです。でもその時、きっと勇者様は、敵の目の前に立っているはずです」

「な、なんで!?」

「『勇者不屈』とは、そういう能力だからです」

「え?」

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