(2)
「そうだった、これを使えばいいんじゃん!」
俺は端末のセンサーに触れ、メニューパネルを次々と出現させる。そして目当てのアイコンを見つけ、それをデコピンで弾き出した。
スタンバイ。
「行くぜ、『ホバー』!」
呪文を唱えると、マギパッドが強い光を放ち、魔法が発動した。
ふわっと俺の足が地面から五センチほど離れた。
「す、すげえ。浮いてる、浮いてるぞ、俺!」
もふん、という感じの厚い空気の袋に包まれ持ち上げられたような、そんな感覚だった。
魔法の使用説明文を読む限り、『ホバー』は地面に対して垂直方向に反発する力が働き、それでわずかに宙に浮くことができるというという魔法だそうだ。同時にその状態で安定姿勢を保つための力も働いており、そのおかげでグラついたり、転んだりすることがないという。
その説明文によれば、傾斜が五度以上あれば『ホバー』の魔法プログラムはそれを『壁』ではなく、『下り坂』であるとみなし、機能してくれるらしい。だからガドのように崖の側面に沿って、歩きながらゆっくり安全に下りることが可能なはずなのだ。
ごくりと唾を呑み、俺は崖の向こうに足を踏み出す。
つもりだったが。
「こ、怖ええっ」
踏み出せず、その場で身もだえた。
もしも説明文どおりに機能しなかったら……という悪いイメージが、その一歩を留まらせていた。
しょうがないだろ。理屈では大丈夫だと思っていても、使ったことのない魔法だし、それをこんな生死がかかったギャンブル的な感じで試すなんて、あんまりだ。
時間がないことはわかってる。
俺は浮かんでいるパネルをちらりと確認する。
こうしている間にもガドはどんどん先へ行き、崖下に到達しようとしている。
そして、現在パネルに表示されている魔法使用料は、刻一刻と加算していく……!
以前、街で通りすがりの人魚族がこの魔法を使っていたからインストールしてみたのだが、これを常に発動させていられるなんて、どんだけ稼いでるんだよ、あの人魚!
「行くしかねえ。よし、行くぞ。今行くぞ。あと五秒したら行く。いや、やっぱり十秒!」
なかなか踏み出せずにうだうだしていると、突然、俺の全身がほんのりと黄色い光に包まれた。
あれ、なんかこれ見覚えが……。
思い出した瞬間、俺の足が一歩、二歩と、勝手に前へ進み出した。
「ちょ、待って! やっぱ、そう、なるの!?」
前から思ってたけど、何なんだよ、これ!?
右足が、ついに足場となる地面を失う。そして、
「う、うわああああああああああああ!」
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