第四章 危機、見つけた(1)


 ガドは出入口のトンネルから、百メートルくらい離れた場所でしゃがんでいた。

「あのな、いきなり突っ走るなよ。親方たちのこととか考えなきゃ──」

 追いつくなり、俺は文句を言おうとして、その言葉を呑み込んだ。

 ガドがしゃがんでいるすぐ目の前が、崖になっていたのだ。

 かなり高い。落ちたら絶対に死ぬレベルだ。

 親方はここを谷底だと言っていた気がするけど、正確にはさらに底があったわけだ。

「あれ、見えるですよね?」

 ガドがその崖下を指差す。

「……あれって、どれだよ」

 腰が引けつつも、俺はその先を見つめる。目を凝らすと、そこには細かい草に紛れて『何か』がいた。

 遠目なのでよく見えないが、細長いキノコのようなものが何本か生え、うねうねとその場で動いていた。この大地に不釣り合いな、どぎつい白と紫の縞模様。形はエノキダケに似ているが……。

「なんだよあれ? 動くキノコ?」

「今回の一件の元凶は、あれのようです。どうやら『マナドレイン』の能力を持っているうえ、昨日よりその力が強まっているです。マナを吸うことで徐々に成長していると考えていいです」

「えっ」

 言われてマギパッドから流出するマナの行方を見ると、その向かう先は、あの数本の動くキノコたちだった。

「邪悪なものを感じるです。あれは……敵です!」

 ガドはそう言い残し、なんと目の前の崖を、ダダダダッ! と駆け下りていく。

「ちょ、え、ウソだろ!?」

「勇者様も早く! 戦いは先手必勝です!」

 崖はわずかな傾斜こそあるが、誤差といってよく、ほぼ垂直に切り立っている。

「早くって言われても……」

 あいつは剣だからいいのかもしれないが、俺は人間だぞ? 勇者の身体能力があるからって、この崖の高さはさすがに無事では済まない。しかもここはハトラだから、落下の衝撃も現実並みと考えていいだろう。高層ビルから飛び降りるのと変わりない。

 だがあの動くキノコが邪悪な敵だというなら、ガド一人で行かせるのは良くないだろう。

 勇者なら戦うべきだと思うし、このままマナを吸われ続けて俺まで動けなくなってしまうのは、いろいろとまずい。

「……あ」

 緑の光を垂れ流しているマギパッドを見て、俺は思い出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る