(3)
目を開くと神秘的な光景が広がっていた。キラキラと輝き地平まで続く白い大地に、雲ひとつない壮大な星空。しかもどこからともなく現れた、神々しい一人の美女。
黄金色に輝く長い髪、陶磁器のように白い肌、エメラルド色の瞳。まばゆい後光と、風もないのにふわふわと揺れている羽ごろも。
「私の声に応えてくれて感謝します、選ばれし者よ。私の名はルウラ。あなた方の次元で言うところの、女神に当たる存在です」
俺はとにかく驚きっぱなしで言葉を失っていた。
興奮で胸をばくばくさせつつ、その女神様の話に耳を傾けた。
女神様が言うには、彼女が統括し見守っている世界のひとつに危機が迫っているらしい。そこは俺が住む世界とはまた別の世界で、つまりは異世界ということだ。
その異世界を危機から救えるのは、選ばれし勇者だけ。
そしてその勇者として選ばれたのが、なんと俺──
……きた。
来た、キタ、キタキタキタァ────!
女神! 異世界! 勇者! 嘘だろ!?
「なにこれ、夢……?」
思わずつぶやくと、
「ほっぺたつねって、確かめてあげましょうか?」
女神様はそう言って、親指と人差し指で挟むポーズをする。
「お、お……お願いしまぁす!」
テンションが上がりすぎた俺は、自分を抑えることができなかった。両腕を広げ、女神様に抱き着こうと駆け出した。
女神様の豊かな胸が眼前に迫る。
だがその瞬間、キュキュッ! という目にもとまらぬステップとダッキングで、女神様が俺の脇下をくぐった。目標物を失った俺の腕は空を切り、勢いあまってヘビメタばりのヘッドバンギングをキメてしまった。
「あ、あれ?」
頭を上げると、右の頬に鋭い痛みが走った。
女神様が俺の頬をつねったのだ。
「ほら、夢じゃないでしょう?」
微笑んでいるものの、つねる手に容赦は感じない。もしかして抱き着こうとしたから怒ってるのだろうか。
「はい、痛いです。すみませんでした……」
出来心とはいえ、無礼を働いてしまったことを謝ると、頬から手が離れた。じんじんと痛みが残る。
夢じゃないのか。
冷静になって興奮を抑えようとするも、やはり胸は高鳴る。
だって、小さい頃から憧れ、妄想していた異世界だぞ? しかもこの俺が勇者だなんて。
「でも、どうして俺なんかが勇者に?」
「強い意志が発せられていたからです」
女神様は言った。勇者になる適齢期はちょうど俺くらいの年頃らしいが、その年齢で心から勇者になりたいと憧れている人間は、今どき俺以外にいなかったのだとか。
ほっとけ! と突っ込みたくなったものの、俺は黙って女神様の説明に耳を傾けた。
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