(2)
それが起きたのは、いつものように教室で異世界モノの小説を読んでいる時だった。
窓ぎわの最後列の席。もっぱら文庫派。昔から好きなのはファンタジーや冒険小説。
昼休みの喧騒の中、大型書店の茶色いブックカバーの向こう側には我関せずで、俺は物語の世界に浸っていた。
退屈な毎日だった。
十六歳。地方の高校二年生。進学して一年と一ヶ月が経ち、俺はつねづね思っていた。
──なんで現実ってこんなに退屈で、つまらないんだろう、と。
今日は木曜日。昼休みが明けたら数学の授業が始まる。
溜息をついてページをめくる。だりいな、なんてどうでもいい会話をする友達はいない。
『和田』という苗字により、始業式の時期はいつも最後列の端の席。ただでさえ人見知りなのに、いっそうクラスの輪には入りづらい。
無口な奴だと思われているだろう。小説を読むのが好きで、誰とも話さず、でも話しかけられたら答える、そんな地味なキャラ。
……学校には来たくない。
かといって引きこもってニートになって、世間から後ろ指をさされるのも嫌だ。じゃあこのつまらない学校を頑張って卒業し、進学、就職したからといって、そこから楽しい人生が待っているとも思えない。毎日通勤して、上司に頭を下げて、残業、ブラック、鬱、エトセトラ……。明るい未来なんてちっとも想像できない。
現実は本当にクソったれだ。
どこかのライトノベルみたいに、いきなり勇者的な存在として異世界に行って、剣や魔法で無双できたらめちゃくちゃテンション上がるんだけどなぁ……。
ぼんやりとそんな妄想をしていた俺は、昼休み終了の三分前にトイレに立った。便所に集まる野郎どもがいなくなるタイミングだからだ。
『選ばれし者よ……私の声に応えなさい』
そんな声が聞こえたのは、用を足し終えてすぐのことだった。周囲には誰もいなかったから、思わずびっくりして、社会の窓を閉め忘れそうになった。
──誰だ? 誰なんだ?
戸惑っていると、いきなり強烈なめまいが襲ってきて、耐えきれずに俺は膝をついてしまった。
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