(4)
勇者に選ばれた者は、異世界において特別な力を持つという。具体的には、勇者しか使えない、『光魔法』という最上級の魔法に、『勇者不屈』という逆境や恐怖に打ち勝つ精神系のスキル、それに勇者しか扱うことのできない『聖剣』と呼ばれる神器を与えられる。
そこまで聞いて、俺は体がわなわなと震え出した。
おそらく、武者震いというやつだ。思わず腕をぎゅっと押さえた。
詳しく聞けば聞くほど、本当にチート級だと感じた。
その力が……この俺に……?
ただし、ひとつだけ特殊な条件があった。
まず前提として、その異世界の重力負荷は小さく、おかげで勇者の身体能力は相対的にずば抜けて高くなるらしい。……重力十倍の場所で修行したら、帰還した時にめちゃくちゃ強くなっているというアレの理屈だ。
だがちょうど三日を過ぎるとその重力に体が順応しはじめ、徐々に優位性が消えてしまうのだという。
それを避けるべく、三日間置きに現実世界と異世界を往復する必要があるらしい。
要するに、三日経つと弱くなるから、現実で体を作り直すわけだ。
ちなみに現実では勇者の魔法やスキルは使えない。普通の人間に戻るという。
──ほんのちょっとだけ俺のイメージと違うが、関係ない。憧れが実現するなら、それくらいはどうってことない。
死んで蘇ったわけじゃないらしいから、異世界『転生』でなくて『転移』かな。まあ、そんな細かい話は置いといて。
やってやるぜ。
俺は条件を飲み、勇者になった。
肝心の聖剣は、ガドッシュという若い剣を選んだ。鞘に納められた様々な形の剣がいくつも並ぶ中、最初に呼びかけてきたのがそいつだったから。それに、気のせいかもしれないが、何かこう、共鳴するものを感じたんだ。
聖剣はみんな自我と知能、対話能力を持った『インテリジェンス・ソード』と総称されるものだった。全部で二十二本あるという話なのだが、俺が見た時には何本か不足していた。
大昔に勇者と共に世界を救ったまま、帰ってきていない剣たちだという。時を経て、海の底や大地深くに沈み、異世界の人々から忘れ去られるまで、彼らはその地に留まり、行くすえを見守るのだとか。
あっぱれだ。
そんな『聖二十二剣』の一刃であるガドッシュは、青い光の粒子を無数に放つ、きれいなロングソードだった。握りは白銀色で、鍔には大きな赤いクリスタル。重厚そうな外見のわりに、片手で振れるほど軽い。
鞘からその剣を抜けるのは、勇者である俺だけらしい。
優越感で、思わずにやにやする。
「ああ、すげぇ。これから俺はこいつと一緒に、魔王か何かを倒しにいくのか! ファンタジー小説みたいな世界で! そういうことですよね、女神様?」
ガドッシュを握り、俺は興奮して尋ねた。
「そう、ですね」
ん? なんか今、女神様が言いよどんだような気がしたが。まぁ、気のせいか。
「はぁ、早く行きたいです!」
俺は溜息まじりに言った。勇者として憧れの異世界に行ける。それだけでテンションが上がり、居てもたってもいられなかった。
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