(16)


「そうかそうか、やはりそうか……」

 アッシュさんは俺の話を聞き終えると、ひとりで納得したように、うんうんとうなずいていた。

「俺、出られますか?」

 その顔色をうかがいながら、おずおずと尋ねる。

 するとアッシュさんは静かに目を閉じて、息を吐いた。

「まずひとつ断っておくが……私はきみの話を、頭から信じることはできない。何しろ立証できるものが一切ないからな」

「……え」

 あれ。なんか、雲行きの怪しい言い方ですが……。

「だがきみが制御不能な転移の力を持っていることをはじめ……外見も、この世界のヒト族とはやや異なること、さらに犯した罪の内容も考慮して……」

 俺は緊張しながら結論を待つ。

 アッシュさんがゆっくりと目を開け、俺を見つめる。

「ふむ。これからきみをプログラムの対象者として、社会に出す手続きをしよう」

 いっ、いよっ、 

「いよっしゃぁぁぁ────んがふっ!」

 返事を聞いた瞬間、俺は人生で一番のガッツポーズをし、思わず立ち上がって飛び跳ね、身体能力の高さゆえに天井に顔を打った。

 痛い……痛いけど、嬉しい!

 この世界に来てはじめて、救いの手が差し伸べられた瞬間だった。

 だがその時。

「ちょいと待ちな、アッシュ」

 部屋のドアがスライドしたかと思うと、そこにひとりの美少女が立っていた。いったい何の種族なのか……その異様な姿に、俺の背筋を寒気が走った。

「り、理事長!?」

 すると、あの威厳に溢れたアッシュさんが声をうわずらせ、途端に動揺しはじめた。

「え、理事長?」

 聞き間違いかと思って俺は再び少女を見る。

「いかにも。あたしが私立ネウトラ学園の理事長だ。坊主、他人を見かけで判断するんじゃないよ。あたしゃこう見えても、そこのエルフのジジイよりは長く生きてる」

 そう言う彼女はどう見積もっても中学生くらいにしか見えない小柄で幼い容貌だった。だが瞳はぎらぎらして威圧感がある。左目にモノクルを掛け、深い青色の髪の毛には、ところどころ紫のメッシュが入っている。

「まぁ、こいつのおかげでこんな見てくれだもんで、そう見られるのも仕方がないと思ってるがね」

 そしてにやりと笑い、少女は自分の腹部を指差した。直視するのに抵抗を覚える、おぞましい化け物を。

 それは一等身のキャラクターを極限まで気色悪くしたような姿をしていた。青紫色の鬱血した顔に、成人並みの長さと太さの腕と脚が付いて動いている。肌はやけどのようにただれ、まぶたのない血走った右目を見開き、そのだいぶ斜め下側に位置する左目は、あらぬ方向を常に見ている。穴だけの鼻は斜め横向き。大きくゆがんだ口からは蛇のように割れた舌がだらりと出ている。

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