(13)
「そういえば、きみ以外の奴らは、俺のことを知らないのか?」
この関係を壊すわけにはいかないのだと自分に言い聞かせ、俺は水掛け論を回避すべく話題をそらした。
「知ってるわ。昼休みのうちに、ピロロがクラスのみんなに言いふらしてたから」
さすが空飛ぶスピーカーだ。
「でもそのわりには……皆さんの態度がドライだった気がするんだけど……」
アギーみたいに、気が変わって話しかけてくる奴がいてもいいような。
「それはまあ、仕方がないわね」
「仕方がないって、どういうこと?」
尋ねると、彼女は言いづらそうに視線をそらした。
「あなたは洗脳されてるとはいえ、私たちからすると妄想に憑りつかれた現役の囚人なのよ? そのうえそんな大事なことをピクシー族に軽々しく話しちゃうような人だから、普通は誰も信用しないし近づきたくないわよ。……それが、ごく一般的な反応だと思うわ」
どうやら俺もピロロも、全然信用がないらしい。
「でも私は、種族を問わず困っている人には手を差し伸べる主義だから、こうしてあなたの手助けをしているわ。誇り高きレニフィラ家の血筋だから当然ではあるけど」
アッシュさんをはじめ、レニフィラ家は代々、種族間差別を無くすための活動に尽力してきた一族らしい。元来エルフ族は森で静かに暮らす閉鎖的な種族らしいが、その中で彼ら一族は特異な存在なのだとか。
アギーは誇らしげに語った。
「……何も知らず困ってる俺を、警察送りにしたのは誰だったかな」
思わず皮肉が漏れる。聞こえないくらいの声量だったはずなのだが、どうやらそのトンガリ耳には届いてしまったようだ。
アギーはむっとした。
「その節は、いろいろと悪かったと思ってるわよ。でも逆の立場になってみなさい。あり得ない所からいきなり変な男が現れて、自宅で騒ぎ始めたのよ? 怖いなんてもんじゃなかったわ」
彼女はあの時、『ビジョン』を使って、自分の故郷である風の国『ドニウ』の雰囲気を優雅に味わっていた。心地よい気分でマギストアにアクセスし、飲み物を買おうと手を伸ばしたら、掴んでいたのはなぜか俺の手だった……というわけだ。
しかも悪いことに、彼女は過去、ストーカーまがいの男に付きまとわれた経験があるらしく、自宅のセキュリティ対策が万全な状態だった。
「ようやく落ち着いてきたところに、今度はその変な男が転入生として学園に現れたのよ? 悪夢としか思えなかったわ」
「う……俺だって、望んでそうなったわけじゃ……」
「言い訳しないで。私だって、望んで騒ぎを起こしたわけじゃないわ。責めるなら私でなく、あなたを実験台にしたヒト族の誰かを責めなさいよ」
残念ながら、何も言い返すことはできなかった。
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