(13)


 俺は彼女が近くにいることにまったく気づいておらず、ぎょっとした。

 ピロロはアギーの頭に降り立つと、その長い銀髪の上をするすると滑って、器用にくるまった。

 それはもうカンガルーの赤ちゃんかのような可愛らしさではあるが、その髪袋はどういう構造になっているんだ?

「……おはようじゃなくて、おやすみね」

 アギーは呆れたように言った。え、ピロロってそこで寝ちゃうの?

「おやすみー。でもアギー、ツヨシにはあいさつしないの?」

 そのままの状態でさっさと立ち去ろうとするアギーに、無邪気な感じであくびをしながらピロロが尋ねる。

 アギーは、ふう、と息を吐き、俺を一瞥し、

「おはようございます」

 と事務的な感じであいさつした。

 俺はつい苦笑いしてしまう。

「う、うん、おはよう。……なあ、それ、痛くないのか?」

 だが怒られるかもと思い、すぐにそれを引っ込めて、髪先にくるまってるピロロを指差した。ピロロはよほど気持ちいいのか、早くもうとうとしている。寝つき早え……いつもそうやって寝てるから、学園で会う機会が少ないのだろうか……。

「お気遣いどうも。でも不思議と痛くないし、首も疲れないわ。たぶんピロロが保有している生体マナのおかげね」

 アギーはピロロの頭の先を指でくりくりと撫でながら言う。

「生体マナ?」

「知らない? 私たちはみんな種族を問わず体内にマナを保有してるのよ。それによって魔法が使えるし、健康体を維持する役割もあると言われてるのよ。逆に病気とかそういうきっかけで、その生体マナが無くなることもあるらしいけど、そうなると大変ね」

「どうなるんだ? まさか、死ぬのか?」

 尋ねると、アギーは首を振った。

「それはないらしいわ。でも、身体の機能は低下するみたいね。動けなくなったり」

 マンガでいう『気』みたいなものなのかな。

「へえ、そのマナはどうやって回復するんだ? 回復魔法とか?」

「マナを回復するための魔法はないわ。だからそういう場合は、自然に回復を待つしかないの。その時に、そばに同じ加護を受けている種族がいると回復が早いそうよ。これもそういうことじゃないかしら」

 アギーはピロロを撫でる。ピロロはすでに寝息を立てている。

「加護?」

 再び尋ねると、アギーは肩をすくめた。

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