(12)
翌朝。学園に行くとロビーで声をかけられた。
「ツーヨシー」
声と雰囲気で、相手が誰かはすぐにわかった。先日のことを思い出して少しイラついた俺は、どうせ頭上を飛んでいるのだろうと思い、深く考えずに手を回した。それは本当に反射的な行為で、宙を飛ぶ蚊を払うような感覚だった。無意識だった。
「ひゃあっ!」
小さな悲鳴、手のひらの感触……そして下ろした自分の右手を見て、その行為がどんな結果を招くのか、ようやく冷静に思い至った。
もちろん、もう遅い。
俺はその小さな妖精、ピロロをぐっと握っていた。
いやぁ。昔から蚊が飛んでると、掴もうとする癖があるんだよな。
「は、離してー!」
「う、うわあっ、やっちまった!」
俺は慌てて彼女を解放した。
ムニュってした。……ムニュってした!
指先の柔らかな感触はしばらく忘れられそうにないが、そんなことより……。
「何するんだよー! びっくりしたじゃんかー!」
「あ、ああ、悪い。マジでごめん」
ピロロは怒って俺の眉間の辺りをずかずかと踏みつけてきた。踏まれていることより、髪を掴まれていることの方が痛い。
だがそれ以上のことをするつもりはないようで、俺は安心した。痴漢とか暴行だと言われたらどうしようかと焦っていたのだ。
これからは軽率な行動を慎もう。……と、何度目かわからない誓いを心の中で立てる。
「そういえばお前、嘘を見抜けるとか言ってたが──」
踏みつけが落ち着いてきたのを見計らい、俺はピロロが能力を間違って解釈していることと、そのせいで迷惑を被ったことを伝えようとした。
「あ!」
──が、ちょうどその時、何か見つけたらしい。彼女は俺のそばをぴゅんと離れてしまった。
「あらピロロ、おはよう」
行き先は、偶然にもすぐ近くを歩いていたアギーの髪の中だった。
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