(11)
仕事を終えて帰ってきた頃には、夜になっていた。
すでに今日の日当はマギパッドに入金されたので、俺はぐっと我慢に我慢を重ねた末、帰宅してすぐにマギストアにアクセスし、適当な飲み物を買って飲み干した。
「くううっ!」
購入したのは『ゴールデンスラッシュ』という商品で、強い炭酸飲料だった。黄金色の液体で、味は甘すぎない栄養ドリンクみたいな感じだろうか。悪くない。
今後もこうやって、いろいろ試してみようか。生活は苦しいが、仕事上がりの一杯くらいは贅沢したっていいよな。
「それにしてもすげえな、異世界の技術は」
マギストアの飲料ボトルは統一されており、全部がひょうたん型。不思議な素材を使い、ぎゅっとねじるだけで飲み口がくにゅんと動き開閉ができるという優れものだ。調べたところ、風の国『ドニウ』に多く生息する特殊な植物で作られているらしく、抗菌作用もある。パッケージは魔法によって印字されており、マギストアを介してボトルの回収をし、魔法洗浄、パッケージ更新の過程を経て、何度も再利用される。環境への配慮も完璧だ。
「この様子だと、環境破壊が世界の危機っていう線はなさそうだぞ」
「ですか」
ガドに話しかけたが、反応はそれほどだった。
相棒は壁に寄りかかって座り、自分の手刀をじっと凝視している。
精神統一法らしい。帰りが遅かった俺のことを心配しすぎて不安になった心を、なんとか落ち着かせようと独自に編み出したのだとか。魔剣扱いされることを相当気にしているようだ。
とても良い心がけだと思うが、たまに発する「くくく……」という笑い声は改めてほしい。……怖いから。
「さて、じゃあ一息ついたし、コリンさんに報告するか」
俺はマギパッドを操作し、更生プログラム専用の魔法を展開した。
今日、仕事に行く途中でコリンさんから連絡があり、ことの成り行きを伝えたら、帰宅後にでも報告するようにと言われたのだ。
更生プログラムの決まりで、俺はGPS的な測位魔法により、位置情報がリアルタイムで筒抜けになっているそうだ。そして予め規定された領域を勝手に出て行動すると、すぐに監視課から状況確認の連絡が入るようになっている。ギルドや徒歩での通学路はともかく、サームタワーはその範囲に含まれていない。もちろん、宇宙空間やハトラもだ。
生活習慣が変わるとその領域も更新されるそうだ。マセキ堀りの仕事が定着すれば、そのために必要な領域が新たに追加設定されるだろう。
報告は決められた事項に従い、どうして規定領域を出て、どこで何をしていたのかなどをビデオレターみたいに撮影し送信するという一連の流れで完了する。どちらかといえば記録のためにやっているような気がする。
「……しかし疲れたな。今日はもう寝るか」
勇者とはいえ、ハトラでの仕事は現実で作業しているのと感覚がさほど変わらないのだ。
俺は報告作業を終えると、すぐに寝袋にもぐった。
「勇者様、ご就寝ですか?」
「ああ、悪いけど電気消すぞ。大丈夫だろ?」
「まあ、はい」
マギパッドで部屋の照明を消す。ガドが何か言いたげにしていた気もするが、俺はすぐに襲ってきた睡魔に勝てず、どっぷりと眠りに落ちた。
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