(6)


「サームでは昔から、お仕事の斡旋をする組織のことをギルドって呼ぶ国が大多数だったので、ネウトラでもそのまま使っているんです。この建物も、昔に建てられた指定文化財なんですけど、せっかくだから、ただ残すんじゃなくて有効活用しようっていう理由で使われてます。その当時にあった宗教団体が建てたものなんですよ。今は国有ですけどね」

 ギルドのことを、『異世界におけるハロワ的な存在』だと記述していた小説があったような気がするが、この世界ではまさしくその通りなわけだった。

 だが俺は頭の中にある憧れのギルド像をぬぐいきれず、念のため尋ねてみた。

「確認なんですけど、例えばどこかの森に行って珍しい薬草を採取して欲しいとか、危険な何かを討伐してほしいとか……そういう『クエスト』なんて、出てないですよね?」

 お姉さんは首を傾げる。

「えっと、『クエスト』……『探求』って?」

「間違えました、仕事の依頼のことです」

「にゃるほど」

 言い換えると理解してもらえた。クエストって言えば通じると思ったんだが、この世界では一般的じゃないようだ。

「うーん、でも、ちょっと難しいかもですねえ」

 お姉さんは自分のマギパッドを操作しながら言う。

「今の時代、薬草なんかはほとんど製薬会社が自社栽培しているそうですし、危険な何かを討伐と言われても……」

「そうっすか……」

 がっかりして溜息をつく。

「危険を伴う仕事をお探しなのですか?」

 お姉さんは気遣うように尋ねた。

「まあ、そういうことになるのかもです」

 異世界で金を稼ぐ方法といえば、クエストをクリアして報酬をもらったり、チートなスキルで商売をしたりというイメージしかなかったため、何か仕事を探すなんて考えはまったくなかった。非常に戸惑っているが、いずれにせよ金は必要だし、何か仕事をしなければいけないんだよな。

 はあ……俺、チート勇者のはずなんだけどなぁ。

「危険な仕事と言われて思いつくものといえば、警察かあるいは『対策機構』ですけど」

「対策機構?」

「はい、そういう職業があるんです。でも国家資格が必要ですから……そこを目指すのも素晴らしいことですけど、今すぐツヨシ様が働くとなるとちょっと──あっ!」

 言いながら、お姉さんが声を上げた。マギパッド上で、何かを見つけたらしい。

「同等の危険をともなう仕事で、無資格でもできる仕事がありましたよ。それにお給料は日払い可能みたいです。いかがですか、興味ありません?」

「えっ、まじっすか?」

 俺はその提案に食いついた。

 給料をその日に払ってくれる仕事というのは、この世界では珍しいそうだ。今日食べるものにも困っている身としては、とてもありがたい。その仕事なら働きたい日に働いていいらしく、学生でも大丈夫だという。

 俺のためにあるような仕事だな。

 どうせ今は国家資格がどうのこうのと言われても無理っぽいし。

「よし、やります。俺、その仕事やってみます!」

 話によれば、その仕事は特に就業場所が危険らしい。

 だが踏み出すことに決めた。

 俺は勇者。もとはといえば、荒ぶるモンスターや魔王なんかと戦うつもりでここに来たんだ。その程度のことで尻込みしていられない。

「うんうん、良い返事ですね。そう、労働は素晴らしいのですっ」

 お姉さんは嬉しそうに言いながら手続きを進めた。

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