(9)


「何言ってんのさー。きみと同じU組だよ。名前はピロロ、よろしくね」

「え、そうなの?」

 小さいから気づかなかったのだろうか。U組にはクマみたいな巨体の奴もいるし、こんな小さな妖精が飛んでいても、目につかなかったのかもしれない。

「独り言はねー、んとねー、濡れ衣がどうとか、悪いことはしてないとか言ってたでしょ? あとは忘れちゃった。あははー」

 ピロロは落ち着きなくちょろちょろと周辺を飛び回りつつ、無邪気に笑った。毒気のないその雰囲気に、なんだか肩の力が抜ける。

 それに肝心な部分は聞き漏らしているようなので、少し安心した。異世界から来たなんて話したら、学園内での立場がさらにひどくなりそうだからな。

「そうそうツヨシー、それで濡れ衣ってどういうこと? 悪いことしてないのに、なんでアギーは怒ってるの? てゆーか、ツヨシとアギーってどんな関係なの?」

 いきなりさらりと呼び捨て。そういうことに抵抗がない性格なのだろう。

「そんないっぺんに訊かれても……」

「じゃあ、アギーはツヨシのことをストーカーって言ってたけど、本当は違うの?」

「違う。それは断じて違う」

「そうなんだー。じゃあ、もっと詳しく教えてよ」 

 ピロロがそう言い、俺の肩に腰かけた。『これって、肩で女子の尻を触ってるってことじゃん!』と興奮しかけたが、理性でなんとか鎮める。

 というか、さっきまでの暗く沈んでいた気持ちが、いつの間にか結構軽くなっている。

 自分の単純さに悲しくなるが、話し相手がいるというのはいいもんだなぁと、しみじみ痛感する。友達になれたらすごく嬉しいが……。

「いやあ、でも……俺が本当のことを話してもピロロは信じられないと思うけど」

「えー、信じるもん!」

 さりげなくこちらも呼び捨てにしてみるが、彼女は特に気を悪くした様子はない。どうやら俺は、この世界なら普通に女子と会話できるらしい(妖精だけど)。 

 それはさて置き。

 どうしたものか。信じると言われても、若干、疑わしい。

「じゃあ、もし俺が遠い外国から来た人間だって言ったら、ピロロは信じる?」

 少しだけ踏み込んだ質問をすると、彼女はうなずき、堂々と断言した。

「信じるよ。だってピロロは、生まれつき本当の言葉を見極める能力があるんだもん。それはつまり、嘘を見抜けるってことなんだよー、わかるよね?」

 ……。

 ……え?

「それ、マジ?」

 だとしたら──。

「マジだよー。ピロロは種族の中でも特別なんだもん。朝の自己紹介の時ね、ツヨシが本当のことを言ってるってわかったから、こうして話を聞きに来たんだよー。アギーが何にも話してくれないから、なんだかんだで昼休みになっちゃったけどね」

 だとしたらこの子、すっごく役に立つ子じゃん。

 さすが異世界。そんな異能を持つ種族が存在するなんて。

「そ、そう、なのか」

 不意打ちを食らった気分だった。

 なんだか急に目頭が熱くなってきた。

「ど、どうしたのツヨシ? 泣いてるの?」

「い、いや、この世界に来てから今まで、俺のこと、全然信じてもらえなかったから……」

 俺は隠すように涙をぬぐった。

 刑務所を出ても、俺は勇者だと認められていないし、信じてもらええない。

 唯一優しくしてくれたアッシュさんでさえ、肝心な部分は信じられないと言う。

 だがピロロがいれば、俺がこの世界を救いに来た勇者なのだと、みんなに証明できる。

「わかった。話すよ」

 俺は彼女を信じ、事情を話すことに決めた。学園に入学するまでの経緯を、ありのまま伝えた。異世界からの転移、勇者、アギーの誤解、刑務所、そして更生プログラム、出所、入学。

 当たり前だが嘘はナシだ。

「で、入学して早々、こういう状況なんだよ」

 すべてを一気に話し終え、俺は深く息を吐いた。

 ピロロの反応は、というと。

「た、大変だったんだねえ……辛かったねえ……」

 なんと号泣していた。他人の身の上話で涙してくれるとは、なんと良い子なんだろう。

「うう、ごめんー。ちょっと泣いてくるー!」

 そしてそのまま、ぴゅんとどこかへ飛んで行ってしまった。泣く時は一人で静かに泣きたいタイプなのだろうか。

 

 放課後。

「おかしい……」

 教室を一人で出て、職員室へ向かう。トパ・オク先生に学園案内をしてもらうことになっていたからだ。

 だが納得がいかない。

「……なぜ、まだ俺は避けられたままなんだ? どうして案内役が先生なんだ? 異世界には率先して転入生の相手をしてくれる奴とか、いないもんなのか……?」

 ぶつぶつと呟きながら、廊下を歩く。

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