(10)


 昼休み以降も、なぜか俺は孤独だった。

 てっきり、ピロロが俺のことを皆に伝えて回ると思ったのだが、その予想は外れたようだ。さっさと吹聴して、俺に対する風評を覆してくれるのを期待しているのだが……本人にそう伝えるのもどうかと思うし、それどころか教室ではピロロに会えなかったし。小さくて見つけづらいとは言え、一度も姿を拝めないというのはどういうわけなのだろう?

 今に彼女が飛んでこないだろうかと、俺は廊下を何度も振り返る。だが一階の奥にある職員室に到着してもなお、それは実現しなかった。

「おや、来たのでしゅね。今日は一日、疲れたでしょう?」

 『職員室』と記されたそのドアが開き、トパ・オク先生が現れた。

「はい……すっげぇ疲れました」

 俺は素直にそう答えた。

「多種族多文化のコミュニケーションというものは複雑で、同種族間の何倍も難しいでしゅ。それを知識や経験の浅い子供のうちから、まともにこなそうとするのは無理でしゅ。自分が納得いくまで、失敗と修正を繰り返すのみでしゅ」

 先生は『良いことを言った感』を醸しながらうなずくと、俺の背後を指差した。

「ほら、修正するチャンスでしゅよ」

「へ?」

 どういう意味だろうと振り返ると、いつの間にか、そこにはあのアギーが立っていた。

「え、えええっ!?」

「ついさっきメッセージでやり取りしたのでしゅ。わたくしに替わって案内役を買って出てくれましたよ。それじゃ、わたくしはまだ仕事がありましゅから」

 先生はそう言い残し、また職員室に引っ込んだ。

 アギーと二人きりで向かい合う。

「嫌だったかしら?」

 制服姿の彼女はその細い腰に手を当てて言った。他のもいいが、制服も似合っている。

「嫌とか、そういうことじゃ……」

「そ。じゃあ案内するから、行きましょ」

「ま、待ってくれ!」

 彼女が踵を返し歩き出そうとするので、俺は慌てて正面に回り込んだ。

「なんで!? きみ、俺に二度と口を利くなって言ってたじゃん!」

 それがいきなり二人きりで学園案内だなんて……嬉しい展開ではあるが、どういう心境の変化なのか説明してほしい。

 アギーはそんな俺に対し、邪魔そうに手で払う仕草をする。

「悪いけど、いろいろ考えてそれは撤回することにしたわ。まあ、とりあえず歩きましょ。案内しながら話した方が効率的でしょ」

「まあ、そうだけどさ……」

「じゃあ早く行くわよ」

 どこか納得いかないものの、言われるがまま、俺は彼女の横を歩いた。

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