(9)


 移動に次ぐ移動の後、惑星ハトラにある作業現場に降り立った。鉱山の中にある採石場らしく、暗い洞窟のようになっている。壁や床のほとんどが、黒っぽくてごつごつした岩、岩、岩。それらはところどころが、ぼんやりと緑色に発光していて、発光が強いものや、ときおり光の粒をふわりと飛ばすものもある。場内はまるで蛍の大群の住処という感じで、とても幻想的だ。

 だがそんな光景を味わっている余裕は、俺たちにはない。

 まず現場に降り立った瞬間に、体がずっしりと重くなる。惑星ハトラは、サームよりも重力が大きいのだ。先輩たちは額に汗を浮かべ、立っているだけでもしんどそうに見える。

 感覚では地球の重力と同じくらいか、むしろ少し軽いくらいだと思うので、俺はさほど苦痛じゃない。勇者の特権だ。

 だが当然のことながら、作業は苦痛だ。叩く、崩す、掘る、積む、運ぶ……その繰り返し。

「おう、どうした小僧? さっきからむっつりしてるが、へばったか?」

 十数分が経過し、作業を続けていると、親方が近寄ってきた。冷やかすように、にやにやと笑みを浮かべているものの、親方もやはり重力差がこたえているのか、眉間に皺を寄せ、ふう、と大きく息を吐く。

「…………んだよ」

 俺は壁ぎわの大岩をがつんとツルハシで叩く。

「ああ? なんだって?」

 親方が聞き返す。

 俺はツルハシを大きく振りかぶった。

 …………。

「なんで刑務所の時と同じことやってんだよおぉぉぉ!」

 怒りに任せてがつんがつんと再び岩を叩きまくった。

「うおっ」

 親方が驚いて身を引く。

 大岩がベッキリとひび割れ、小岩が周囲にいくつも転がった。

「う、うるっせえな! なに叫んでやがんだよ!」

 俺は最後にがつんとやって手を止め、親方に向き直った。

「なんなんすか、これ? なんで囚人と同じ仕事してんすか!?」

 そう、実はここ、すでに来たことがある。ゴンドラに乗った感覚も、重力差による負荷も、幻想的な採石場も、緑に光る鉱石の採取も、全部、刑務所時代に経験済みだ。

「なんだよ、今さら気づいたのか?」

「だって、だって……!」

 その時は脱走防止だとか安全対策のため、移動の際は外の様子が遮断されていてわからなかったが、まさか宇宙に出て刑務作業していたとはな……。

 俺のコミュニケーション能力の問題もあるが、誰も教えてくれなかったんだもん。ひどいよな。

「なんで同じ仕事してるかって、そりゃあお前、いくら人手があっても困らねえ仕事だからに決まってんだろ」

「どういう意味っすか!?」

 俺と親方のやり取りに、他の先輩たちも群がってくるが、

「いいから、てめえらは働け!」

 と一括される。

 親方はすぐ向き直り、尋ねる。

「ここでオレらが掘ってんのは、『マセキ』ってやつだ。わかってるか?」

「……?」

「なんで知らねえんだよ」

 親方は呆れ顔で笑った。

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