(6)


 めまいが治まったと感じた瞬間、いきなり誰かに腕をつかまれ、引っ張られた。

「な、なんだ?」

 思わず前につんのめるも、転ぶことなく踏み留まる。

 逆に、掴まれていた腕を引っ張り返してみた。

「きゃっ!」

 何やら可愛らしい悲鳴。

 俺の胸に何かがぶつかる。軽くて、それとなく柔らかい。

 空間を覆っていた白黒のモザイクが晴れ、景色がくっきりと現実感を帯びる。

 ぎょっとした。俺の胸にぶつかったのは女の子だった。

「う、うわっ」

 俺は驚いて声を上げた。女の子も驚いた様子で手を放し、後方に飛び退いた。しかし着地で足をもつれさせ、尻もちを突いてしまう。

 大丈夫か、と声をかけようとして、俺は絶句した。

 銀髪ロングヘアの美少女だった。

 俺と同い年くらいだろうか。整った顔立ち、透きとおる白い肌、気の強そうな目、碧く澄んだ瞳。

「よ、妖精……?」

 あまりの美貌に、俺は思わずつぶやいた。するとガドッシュが念話で話しかけてくる。

『あの子はたぶんエルフ族ですね。エルフも妖精の一種なんですよ、勇者様』

「エ、エルフ!?」

 テンション上昇を促す魅惑の単語だった。

 彼女の服装は森の小人が着ているような緑色の布の服。

 よく見ると、尖った耳が髪の隙間からぴょんと出ているじゃないか。

「す、すげえ……」

 なんともファンタジック。

 周囲の光景に目を向けると、また興奮が増す。旅行中の観光客みたいに心がおどる。

 降り立ったのは青々とした木々に囲まれた場所。秘密の森の広場という感じだった。薄緑色に輝く綿毛をふわふわ放つ草花が絨毯のように一面を覆い、それらを木漏れ日が照らす。木々の枝の上、カラフルな小鳥たちが羽を休め、チチチ、と鳴いている。

 いかにも妖精やエルフが好みそうな場所だ。

「俺、本当に異世界に来たんだ。はは、すげえ、すごすぎる!」

 興奮と感動で胸がいっぱいになり、思わず笑いがこみ上げた。

 その時だった。

「あなた何者? どうしてマギストアから?」

 美少女が尻もちをついたまま喋った。あまり友好的な感じではない。

 緊迫感が漂う。

 ちなみに勇者は、異世界におけるあらゆる言語を瞬時に翻訳できる。現に彼女の言葉は日本語として俺の耳に届いたが、海外ドラマの吹き替えのように、口元の動きと微妙に一致していない。こちらの言葉も同様で、相手に理解できる言葉に変換されるという。

 俺はたじろいだ。

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