(20)


「ったく。あなたって、突然騒ぎ出すわよね。理性ってものがないのかしら。……まあ、いいわ。そんなに魔王のことが知りたいなら教えるわよ。早くしないと授業始まるし」

 アギーはその綺麗な顔を歪め、自分の手のひらを見つめる。『ばっちいもの触っちゃった』とでも言いたげな目だ。

 ああ、またテンションが上がりすぎて、やっちまったパターンだ。

 でもしょうがないだろう。魔王だぞ? どう考えても世界の敵だぞ? 

 いい土産話ができた。これでガドに対しても面目が立つ。

 さぁて、俺が討つべき魔王は、どんな奴なんだ?

「はい、これが魔王よ」

 するとアギーはマギパッドを素早く操作して、一つの画像を見せてくれた。

「へ、へえ……画像、あるんだ」

 そこには漆黒の体に青い眼を持つ、厳めしいドラゴンの姿があった。二本足で立ち、大剣を地に突き立てている。広げた翼は大きすぎるのか、画角におさまっていない。

 ……さすがは魔王だ。マギパッドで『検索魔法』を使えばちょちょいってか。

 なんというか、やや肩透かしを食らった気分ではあるが、しかしこの魔王、強そうだし、凶悪そうだ。実にその称号に相応しい。

 名前はジャハル・DK・アビドデス。種族は竜人族。第二十四代目の魔王。四大国の一つである火の国『エリフレ』の国王でもある。

 エリフレの国土の半分以上は、一般的に『魔界』と呼ばれる地域になっており、その影響で国王は『魔王』と呼ばれることが多いそうだ。俗称ってやつだな。

「魔界の王、か」

 ……俺はこいつを討たなきゃならないのか。

 だがどうすれば魔界に行けるんだ? 魔王の住む場所(たぶん魔王城)に乗り込むには、どれくらいの魔物を倒す必要があるんだ? 魔界というくらいだから、とてつもないバケモノがうようよいるに違いないし、そう簡単には辿り着けないだろうな。

 ……いざとなると身ぶるいがしてくるぜ。

 これは小説の中の話じゃない。俺のリアルな命懸けの戦いが、これから始まろうとしてるんだ。

「で、せっかくだからこっちの画像も見て。もっと驚くわよ」

「?」

 アギーはやや自慢げにマギパッドを操作し、もう一つの画像を見せてくれた。

 その画像には、例の魔王とアギーが、記念写真のように並んで写っていた。魔王は縦と横で、大体アギー十人分くらいの大きさだった。

 いやぁ、よく画角におさまったもんだなあ。アギーが小っちゃいのなんの。

「って、んなことはどうでもいいんだよ! なんでお前が魔王と一緒にいるんだよ? まさかお前、魔王軍の幹部か!?」

「はあ? 何の話よ、魔王軍? っていうか、『お前』って呼ばないで。馴れ馴れしい。友達でもないのに失礼よ。ほんっと、嫌いだわ」

「す、すみません……」

 アギーは思い切り顔をしかめた。会話することはできても、嫌われていることには変わりないようだ。


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