(21)
「これは二年前に撮影したものなの。おじい様との繋がりで、たまたま魔王と会えたのよ。すごいでしょ?」
アッシュさんくらいの人物になると、各国の要人と会合する機会もあるらしい。……あれ、そういえば昨日からの出張って、行き先はエリフレじゃなかったっけ?
出張先が魔界ってこと? そんな感じで行けちゃうの、魔界って?
思わず閉口してしまう。
「まあ、もしもプライベートなことを詳しく知りたいのなら──」
「そ、それより魔王はどんな悪事を働いているんだ? もしかしてエリフレってのは独裁国家で、恐ろしく強大な軍隊を持ってて、いつか世界を征服しようと画策してるんじゃないか?」
アギーの言葉を遮り、俺は祈るような気持ちで尋ねた。
──頼むからめちゃくちゃ悪い奴であってくれよ。隣国から女子供を拉致監禁したり、気まぐれで大量虐殺とかしていてくれよ。
アギーは深く溜息を吐いた。
「そんなわけないじゃない。今は国王でさえ法で裁かれる時代だっていうのに、いったい何世紀前の話をしてるのよ? 現魔王は、しょっちゅう威嚇する癖はあるけど、それでも立派な王よ」
「りっぱな、おう……」
がっくりと俺はうなだれた。
「まったく、あなたと話していると疲れるわ。植え付けられた偽の記憶と現実を、ごっちゃにしているんだもの。……まさか、魔王を討って世界を救おうだなんて考えてるんじゃないしょうね? あなたが魔王に会えるとは到底思えないけど、仮にそれを実行しようとしたら、それは重罪よ。文句なしに死刑になるわね」
アギーは溜息をつき、諭すように言う。
「そ……それじゃあ、魔王のことは置いといて……。他に何かないのか? 俺さ、ピロロにも話したけど、この世界に何か危機が迫ってるって女神様から聞いて来たんだよな……」
くじけそうになるも、諦めずに質問してみた。
「危機、ねえ」
アギーは肩をすくめる。
「危ないとしたら、それはあなたの思考回路だわ。早く解けるといいわね、その洗脳魔法」
「なんだよそれ……」
その時、マギパッドの通知音が鳴った。
「もう、あなたのせいで授業始まっちゃったじゃない」
アギーはくるりと向きを変え、そそくさと行ってしまった。
「俺、マジで何のために、ここに来たんだ……?」
俺は膝をつき、そのまましばらく放心していた。
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