(22)


 放課後、俺は一人でロビーを歩きながら、頭を悩ませていた。

 その後も頑張って他のクラスの生徒に声をかけたりしたのだが、結局かんばしい成果は得られずじまいだった。1Uの連中には避けられたままだし。

「はあ、ガドに何て言えばいいんだろうな……」

 やはりそのまま伝えるしかないのだろうか。この世界には魔界があり、魔王もいるが、そいつが世界征服を目論むような時代はすでに終わった。ここはもう、戦争すらない平和な世界なのだ、と。

 ガドの奴、いきなり暴れ出したりしなきゃいいが……。

 ああ、考えたらどんどん心配になってきた。そもそもあいつ、おとなしくちゃんと留守番しているだろうか。俺がいない間にまた発狂(俺はあれを『魔剣モード』と呼んでる)していたら大変だぞ。

 血を求めて近隣住民を手当たり次第に……なんてことはない、よな?

 ないと言ってくれ。 

 早足で校舎を出ると、空が曇っていた。薄暗い、灰色の空だ。

「あれ、雨?」

 ぽつりぽつりと雨が降ってきた。この世界に来て、はじめての雨だ。

 それはあっという間に、どしゃ降りになった。

 もはや嵐。

 俺は街を駆け抜けた。顔にかかる雨水は冷たいが、制服で守られている首から下は冷たくない。素肌に着用しているというのに、さすがはサームの先端技術だ。

 曇天にぴかっと稲妻が走った。激しい稲光で、薄暗い景色がさっと明るく白んだ。

 うおお……こんな雷、現実世界では見たことがないぞ。

 身の危険を感じつつ、俺は慌てて走った。


 アパートに着く。風呂に頭を突っ込んだみたいに、顔と髪だけがびしょ濡れだった。

 ドアを開けると、室内は暗かった。照明がついていない。

「おーい、ガド、いるのか?」

「あ、おかえりなさいです、勇者様」

 返事は聞こえるが、ガドの姿はない。

 どうやらキッチンの方にいるようだ。玄関から死角になっているのでよくわからないが、ガドの体から漏れているのであろう青い光だけが、薄闇にぼんやりと見えていた。

「こんな暗い部屋で何やってんだよ?」

 中に入って行くと、カウンターキッチンの奥に佇んでいるガドがいた。

 その時、外で雷が鳴り、室内がぱっと照らされた。

 同時に、その異様なガドの姿も照らし出された。

 笑顔だった。

 だがその顔や髪、肩、両腕──上半身全体が、何かで赤々と染まっていた。

「う、うわああ! ガドぉぉぉ!」

 思わず叫んだ。ガドが負傷しているようには見えない。いや、そもそも剣だから、血は流さないのか?

 だ、だとしたら──

「お前のそれは、誰の血だあああっ!?」

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