(19)
「こ、この世界のダークサイドに詳しい生徒って、誰か知らないか?」
翌朝に登校して早々、俺はなんと、あのアギーに対し尋ねていた。
つい昨日『嫌いだ』と言われた相手に話しかけるなんて、よほど度胸がすわってる奴か、馬鹿じゃなきゃできないだろう。普段の俺なら絶対に無理だ。
だが俺は話しかけていた。他に話せる相手もいないし、ちょうど廊下を一人で歩いている彼女を見つけたし……なんて迷っていたら、なんと足が勝手に動き出したのだ。
その時、俺の体がうっすらと黄色い光に包まれた気がした。
あれ、何かこの感じ、前にもあったような──なんて、デジャヴってる余裕はなかった。
わけもわからず動く俺の体。やめてやめてと念じても止まらない。額は汗ばみ、手は震え、緊張で吐き気さえ催していたが、俺はアギーのことを追ってしまっていた。
ようやく体の自由を感じた時には、すでに彼女はこちらに気づいていた。
引き返そうにも引き返せず、まとまらない思考回路でひねり出した質問がそれだったわけだ。ガドと約束した、世界の危機に関する情報収集。
ちなみにガドは現在、アパートで留守番中だ。
「……」
返答を待つ。
緊張していた。のどがからからだった。
「……うん、あなたの言わんとする意味がよくわからないのだけど?」
アギーは首をひねった。事務的で冷たい態度ではあったものの、意外なことに、嫌がるそぶりを見せず応じてくれたのだった。
「だからその、なんというか、凶悪な秘密組織のうわさ話とかを集めてる奴、いないか?」
「秘密組織? あなたを実験台にしたヒト族の組織とか?」
そうだった。アギーの中ではそういう設定になってるんだった。面倒なので、とりあえずそこは話を合わせておこう。
「まあ、そういうのもだけどさ。例えば、危険な古代兵器を復活させようとしてる連中がいるとか、滅びたはずの魔王軍が地下で秘密裏に力を蓄えてるとか」
「古代兵器? そういうのは聞いたことがないわね」
「そうか……」
レニフィラ家は平和的な家柄みたいだから、そういった裏の世界とは縁がないのだろう。
「でも現在の魔王のことなら、私でもけっこう知ってるわよ」
「だよな、悪い。頑張って他の生徒に当たって──」
──え?
「あの、アギーさん? 今、魔王を知ってるって言わなかったすか?」
「……あなたバカなのね。質問しておいて答えをちゃんと聞かないなんて。というかこれ、親切心からの忠告よ。魔王は今も生きてるし、日々、まっとうに公務を行ってるはずよ。『滅ぶ』だなんて、二度と口にしないことね。魔界出身の誰かに聞かれたら、あなたきっと、今よりもさらに嫌われるわよ。殴られても文句言えないくらいね」
え、え、ええっ!? マジか!?
殴られるのは怖いが、そんなこと今はどうでもいい!
「ももも、もっと聞かせてくれ! 魔王がいるのか、この世界には!? それに魔界も!? なんでそんな大事なことを早く言わないんだよ!」
俺は思わず興奮し、前のめりでアギーに尋ねた。
「顔が近い。声でかい。馴れ馴れしい! また通報して檻にぶち込んでもらうわよ!」
「ぐええっ!」
そんな俺を止めるため、アギーはさっと手を前に突き出した。故意か偶然か、その手が俺の喉を鷲づかみにした。カウンターぎみに入り、思わずうめいた。
……危なかった。勇者でなければ首を負傷し、鞭打ちで入院していただろう。
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