(28)


 会いに行くためにモンスターの大群と戦う必要はなさそうだが、相手はいわば現実世界で言うところの他国の首相。普通に会おうと思ってもかなり難しい気がする。

 ……だが俺は勇者だ。必要となればやるしかないだろうな。

「ふ、ふふふ……」

 ふと気づくと、ガドが口元に歪んだ笑みを浮かべていた。瞳の焦点があっていない。

「ふ、そんな牙の抜けた魔王なんて今すぐ打倒して、勇者様が魔王の座に着けばいいじゃないですか……。そうだ、それで勇者様が世界を征服して、その勇者様をボクが斬ればいいんですよ。そうすれば無事に世界は救われ、ボクも先輩の聖剣たちと同じように……」

「おいガド、魔剣モード入ってるぞ」

 悪堕ちしているようにしか見えなかったので思わず注意すると、

「う、うわぁぁぁっ!」

 ガドは頭を掻きむしり、

「僕は魔剣じゃないいっ!」

 癇癪のように喚き出した。

 ……駄目だ。 

 こいつ、本気で何かやりかねない。

 押収品保管庫でのトラウマに加え、戦う相手がいないことによる存在意義喪失の危機に陥っている……という感じだろうか。

 マジで何とかしなきゃな。

「ガド、しっかりしろ、とにかく今は耐えて、待つんだ!」

 俺はガドの両肩を掴み諭した。それはまるで、自分に言い聞かせているようにも思えた。

「俺も正直めっちゃ苦しいよ。この異世界生活、すっげえ不満だらけだよ。だけどな、お前が昨日言ったとおり、きっとこの世界のどこかに危険な何かが潜んでると思うんだ。だから俺、学園にも通いながら世界を回って、その危機を探し出してやるよ。決めたぞ」

 そう、危機は絶対に潜んでいるはずなんだ。

「で、ですよね……敵はどこかに必ずいるのですよね!」

「そうだ。そうでなければ、女神様がわざわざ俺たちを異世界に送る意味がない」

 ガドの顔色が急に明るくなる。情緒不安定なやつだなぁ……。

 だが期待させる一方で、俺は自信があまりなかった。

 それどころか、気づけば今日食べるものさえないし、世界を回るどころか、明日学園に行くためのテレポート代すらない。あるのは不安と、髪の毛ほどの小さな希望だけ。

 マジでどうすんだ、これから……。

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