(27)


 満足げな顔で弁護士が去った後、俺はマギパッドの画面に浮かぶ『0G』という所持金表示を呆然と眺めていた。若干の不足分は、来月以降に追加徴収されるらしい。

 現実世界ですら財産ゼロってあんまりないぜ……。

 これからどうやって生活するんだ? 学園にも通わなきゃいけないのに。

 悩んだ末、無一文になったことを打ち明けると、

「我慢がならないです」

 ガドは赤い瞳をぎらつかせて立ち上がった。コート(いや、鞘か)は先ほど俺が着せたのだが、金のことで頭がいっぱいでその裸は記憶に残っていない。

 ガドはドアに向かって駆け出した。

「ちょっと待て。どこに行くつもりだよ?」

「その者を斬りに行くのです!」

「だろうな!」

 聞くまでもなかった。俺はすかさず正面に回りこんだ。

 ガドは俺の制止を振り切ろうともがく。噛みつかれるのではと思うほどの、野獣のような剣幕だった。

「なぜ止めるのですか? そいつは悪ですよ。世界を救う勇者様よりも己の利を優先した下衆なのですよ?」

 ああ、そんな理屈がまかり通るなら、俺だっていろんな奴を斬り捨てたいさ。

「次に逮捕されたらマジで最後なんだぞ! それに俺は勇者だ、犯罪はしない!」

「悪を斬ることが罪だというのですか!?」

「相手はモンスターじゃないんだ。斬ったら駄目なんだよ!」

「じゃあボクはいったい、どこのどいつを斬ればいいんだぁー」

 ガドは崩れ落ち、悔しそうに床をどんと叩いた。

 気持ちはよくわかるが、ここは耐えてもらうしかない。

「とにかく待て、今はまだ相手がいないんだ」

「相手が、いない?」

 ガドはオウム返しに言って、顔を上げた。

「そういえば勇者様、今日の学園での聞き込みの結果は、いかがだったのですか?」

 う、やべえ。

「あ、ああ……その件だけどな、一応、情報はゲットしてきたんだ」

 ごたごたしてすっかり忘れていたが、その話もしなきゃいけないんだった。

「ど、どんな情報ですか、それは?」

 ガドは早く聞かせろと言わんばかりに食いついた。

「ま、まあ落ち着いて聞けって。な?」

 うわー、めちゃくちゃ話しづれぇー。

 だがこれからずっと異世界生活を共にする相棒に、嘘をついても仕方がないしなぁ。

 恐るおそる、アギーから聞いた魔界と魔王の現状を中心に、聞き込みの結果を伝えた。

「すでに魔王は無害化している、と言いたいのですか……?」

 聞き終えたガドは、呆然とした様子で呟いた。

 さっきまでの俺ってこんな感じだったのかな……なんだか他人の落ち込んでる姿を見ていると、不思議なことに『自分はしっかりしなきゃ』という気持ちになってくる。

「もちろん、鵜呑みにするつもりはないぜ。いずれ直に魔王と会って、確かめてやろうと思ってる」

 ガドを励ましてみるものの、果たして実現できるのかは、少々疑問だ。

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