(26)


「いやはや私も大変心苦しいのですが。まぁ、もし支払いを拒否されるようなことがあれば、こちらとしては法を武器に戦うしかありませんね」

 弁護士は、まったく心苦しくなさそうな態度で言った。

「それって、もしかしてまた刑務所送りになったり……?」

「場合によっては、充分あり得ます」

 彼がそう言ながらマギパッドを操作すると、俺に請求案内が届いた。費用の明細が記された画面が出現し、その右下で『承認』のアイコンが薄黄色に光っている。

「あ……う……」

 払わなきゃいけないのはわかるが、躊躇してしまう。

 すると、弁護士が思い出したように言った。

「ああ、そういえば先ほど面白い写真が撮れたので、せっかくですし、この機会にお見せしますよ」

「は、はあ……?」

 面白い写真? 何のために?

「あなたが帰ってくるまで、この辺りを散歩していましてねぇ。まあ、途中であの雨に見舞われてしまったので、カフェに逃げ込みましたが。それはともかく、その最中にたまたま出くわしたのです」

 何に? 

 すると弁護士は宙にその画像を出現させた。

「野菜泥棒の現場ですね」

 写っているのは、家庭菜園っぽいところから笑顔でトマトもどきを抱えて出てくる、ガドの姿だった。

 泥棒などしているつもりのなさそうな、良い拾い物をしたとでもいうような、無邪気な笑顔だ。

 ……そういえばガドの奴『外を散策していたら生えてた』なんて言ってやがったな! 

 生えてるんじゃなく、生やしてるやつだから、それ!

「子供のいたずらかと思って様子を見ていましたが、この犯人の向かう先を追ってみれば、なんとあなたが住むアパートの、あなたの部屋に入っていくじゃありませんか」

「…………」

「この子とあなたの関係がどうなのかはわかりませんが、もしもこれが明るみになれば、あなたにも疑いがかけられ、立場が悪くなるのでは?」

「半年でちゃんと完済します」

 俺は泣く泣く承認アイコンに触れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る