(4)


「おいガド、お前だけ楽しんでんじゃねえ! 一人で全部倒す気かよ!」

 戦闘なんてしたことないけど──もちろん剣も扱ったことないけど、ガドが簡単に敵を倒していくさまを見て、俺でもなんとかなりそうだと、戦ってみたいと、思ったのだ。

 なんたって勇者だし。相手キノコだし。

「真剣勝負を目の前に、『楽しむ』だなんて、不謹慎ですよ勇者様!」

 ガドが叫ぶ。

 ああ、そう言われてみればそうだな。自重しないと──

「──ってそうじゃなくて、俺も戦いたいんだよ!」

 武器が一人で戦ってしまったら、俺はどうすりゃいいんだ。

 戦況はガドが圧倒。今まではうねっているだけだったキノコは、大蛇が獲物に噛みつこうとするかのごとく襲ってきたり、胴をしならせて体当たりしてきたりと反撃を開始した。

 だがガドはことごとくそれらをかわし、また一閃。

 ……このまま殲滅しちゃうんじゃないだろうか。

「ん?」

 その時、視界の隅に何かが動いた気がした。

 驚いて振り向くと、いつの間にかそこにキノコがいた。

「お、う、ええ!?」

 思わず変な声が出た。

 キノコは雁首をもたげ、俺を威嚇しているように見えた。白紫のまだら模様をした傘のてっぺんには穴が開いていて、俺のマギパッドから流れるマナが、そこに吸い込まれている。

 傘が突撃してきた。

「うらあっ!」

 冷静に避けるという選択もあったのだろうが、どうすればよいかわからず、俺はとっさにそれを真正面から殴った。素人の右ストレートだが、カウンター気味に入った。

 感触は重かったが、表面は布団を殴ったみたいに柔らかかった。迫り来る軌道をそらすことはできたが、やはり効き目はなかったようだ。

 キノコは胴をくねらせ、俺の腰に巻き付いてきた。

「き、気持ちわりいなこの野郎!」

 引きはがそうとして、俺は傘の根本に腕を回した。そして思い切り力を込めて引っ張った。

 ブチブチッ! キシャアッ!

「うおっ」

 エイリアンのような悲鳴と共にキノコが裂け、俺は勢い余って尻もちをついた。腕の中にある先っぽがまだうねっていたので、慌てて放り投げた。

 根元の部分はすでに動かなくなっていた。地面に落ちた先っぽも、傷を負った芋虫のように転がっていたが、数秒ののちに沈黙した。

 どうやら、やっつけたらしい。

 あんな太いやつを引きちぎることができるとは。ハトラの重力負荷により動きは現実なみだとしても、勇者の腕力は健在なのだ。

「やった……俺、戦える……戦えるぞ!」

 自分の両手を見下ろし、勝利の余韻を味わう。偶然という気もするが、勝ちは勝ちだ。じわじわと自信が湧いてくる。

 その時、ガドの驚く声が聞こえた。

「うわぁ! いつの間に背後に!?」

 見ると、ガドがキノコに足を巻き取られていた。他にも何本か腕に巻き付いたり、コートや髪に吸いついている。

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