(8)


『置いて行かれた時には、どうすんのかと思ったが……』

 薄れた意識の中で、親方は俺とガドが魔獣と戦おうとしていることに気づいたらしい。心配してくれたようで、力を振り絞り、なんとか崖まで這いずってみれば、その下で俺たちが壮絶な戦いを繰り広げているのが見えた。

 そして戦いが終わり、その数分後に対策部隊が到着したのを見届け、親方の意識はそこで途切れたそうだ。

『あとで聞いて驚いたぜ。お前が戦ったって話は、少しも出てこねえんだからよ。オレは夢でも見てたのかって思ったぜ』

 親方は、自分の目で見たものを確かめるために、こうして俺に連絡してきたのだ。

『対策部隊の連中は、自分たちより強い奴がいるなんて思っちゃいねえ。盲目してやがんだ。だからおそらく、奴らには嘘をでっち上げてる自覚もねえ。『今日も魔獣を倒して市民の安全を守ったぜ、万歳』と本気で思ってやがるはずだ』

「ですね」

 ガドが腕を組み、憎々しげにうなった。

『オレは専門家じゃねえから自信はねえが……あんな魔獣はたぶん、今まで出現したことがねえぞ。ガキが読んでる『世界のこわ~い魔獣図鑑』ってのにも、載ってねえ』

「そんな図鑑、あるんすか」

『ああ、ある』

 俺は思わず笑ったが、親方の表情は真剣だった。

 新刊のその図鑑には、去年までに出現した魔獣の主だった種類だとか、特徴などが記載されているらしい。対策部隊が集めたデータをもとに、出版社が協力して制作したもののようだ。

 遠距離かつ広範囲のマナドレイン、成長、進化、増殖──そんなあれやこれやを合わせ持つ魔獣については、記載がない。直接噛みついてマナドレインをするオオカミのようなやつだとか、卵を産んで増えるトリのようなやつだとか、それくらいがせいぜいのようだ。

 親方があれをただの魔獣でなく、バケモン魔獣と呼んだのは、そういう意味らしい。

『これはオレの勘だが……対策部隊があれとやり合ってたら、おそらく全滅だぜ』

 無数に増殖する巨大マンイーター。

 飲み込まれる対策部隊の面々。

 想像し、俺はごくりとつばをのんだ。

『つーわけで、こうなっちまったモンを覆すのは難しいかもしれねえが、とにかくマセキ掘り全員を代表して言わせてもらうぜ。……ありがとな、オレらと、オレらの仕事場を救ってくれて』

 親方は照れくさそうに笑った。

 そして通信が切れ、パネルが消滅した。

「……」

「勇者様?」

 黙っている俺を不審に思ったのか、ガドが顔をのぞき込み、

「勇者様、その顔は、さすがにちょっと……」

 眉をひそめて一歩ひいた。

 自分がどんな顔をしていたのかはわからないが、そんなこと、今はどうでもいい。

「俺が……救った……」

 俺はその言葉を、味わうように繰り返し口にした。

 親方の見解が正しいならば、俺は規格外の魔獣を倒したことになる。その結果、何をどれくらいの規模で救ったことになるのかは、正直なところよくわからないが。

 俺がこの手で人を救ったのだ。そしてそれを見てくれている人がいたのだ。

 胸にぐっと込み上げてくる喜び。

 これだよ。俺が求めてたのは、こういうことなんだよ。

「ガド」

「は、はいっ」

「今回はアレな感じだったけど……次こそは本当の世界の危機を見つけて、大勢の前で、それをぶっ倒してやろうぜ」

「はい!」

 ガドがやる気に満ちた顔で返事する。

「で、近いうちに四大国のどこかに行こうぜ。海をわたってさ。本格的に、危機さがしだ」

 まず気になってるのは、火の国エリフレか、水の国レタか……。

「そのためにも、貯金が必要だな。有給のおかげで金は入りそうだけど、トータルで旅費がどれくらいかかるかまだよくわかんねえし。来週末から、また二人で仕事に出て──ん?」

 意気込んだ瞬間、ふたたびマギパッドに反応があった。ごく小さな洋風の便箋マークが宙に浮かんでいる。通信魔法によるメッセージのようだ。

 指先でマークをタッチすると、パッと封が開くアクションとともに、パネルが広がった。

 タイトル。


『マナ使用料の特別請求について』


「へ……?」

 中身を読む。

 その内容は、突発的なマナの大量消費による使用料の特別請求をするというもので、毎月のマナ使用料の請求とは別らしい。

「大量消費って、何のことだよ。いつ俺がそんな……」

 そう思ってマナの使用日を見ると、今日だった。

 ……。

「え、もしかして、光魔法のせいか!?」

 マギパッドは使用者登録をした時点で、使用者が消費したマナの計測をしはじめるのだが、まさかマギパッドを介さずに使用した魔法までそれが適用されるとは思わなかった。

 で、肝心のその請求額は……?

 俺は震える指で、次のパネルを出現させた。

 そして現れた数字を見た瞬間。

「う、うわああああああ!」

 思わず悲鳴を上げ、パネルを放り投げた。魔法のパネルは壁に当たって霧散した。

「ゆ、勇者様!?」

 腰が抜け、床に仰向けで倒れそうになるのを、ガドが慌てて支えてくれた。

 体中がわなわなと震えた。魔獣と対峙した時よりひどいかもしれない。

「い……いちおく、ごーるど……?」

 見間違いであってほしいが、残念ながらそれはないだろう。並んだゼロの数が、目に焼きついて離れない。

 どうやって払えと。

 学園にも行かなきゃいけないし、稼げるクエストなんて都合の良いものもないんだぞ?

「クソだ……あっちもこっちも、やっぱり俺の世界は、クソったれだあああ!」

 俺は心の底から叫んだ。



(ひとまず了)



 ※作者、尾崎ゆーじより。


 勇者ツヨシ踏み出せ、ひとまずはここで区切りとなります。第1節です。


 ところが、もっと面白く、読者様が物語に入りやすいよう、前半部分の大幅なリライトをしている最中で、その模様は拙著『勇者ツヨシ、踏み出してみた!』にて、ご覧いただけます。


 都度、パターンA、Bのように、展開の仕方、構成などなどを、私の仲間や読者様に問うべく、公開していくこともあります。修行と成長の過程をお見せすることになるので、気は引けますが…。


 正直、ツヨシは時間がかかりそうだなあと思っております。自分がファンタジー(SF風)っすか……という挑戦感はもともとありましたが、ここまで苦戦するとは思いもよらず。


 しかも世の中には異世界モノがあふれ、私自身も食傷ぎみ……。


 ですがそれでも、ツヨシの物語のラストを、読者様に気持ちよく読んで欲しいという願いがかわらずにあるので、他の作品も手掛けつつ、地道に努力していきます。


 物語は大体4大国を回ったりしつつ、他にも乗り越えなきゃいけないことがあったりするので、おおよそ6節か7節くらいになるのかと思います。


 どうかどうか、ツヨシと尾崎の応援をよろしくお願いいたします。


 2018.9.3 尾崎ゆーじ


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