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──警察の取り調べの際に話を聞いて、いくらかわかったこと。
まず、でかい塔がそびえるSF的なあの光景こそが、まさしくこの世界のリアルらしいということ。最初に俺が見た秘密の森の広場っぽいあれは、エルフの子がこの世界の魔法で作り出した仮想の風景なのだとか。
『ビジョン』と呼ばれるそれは、近ごろ多くの女子の間で流行している魔法だそうだ。都会に住みながら自分のルーツとなる地をリアルに味わえるので、心の癒しになるのだとか。
地方民としては、共感せざるを得ない。
ちなみにこの異世界はサームと呼ばれていて、俺が降り立ったのは、そのサームにある『ネウトラ』という国の『アイルサイド』とかいう高級住宅街だったらしい。
残念ながらそれ以上の詳しい説明は聞けなかったが、話のふしぶしから得た印象では、ここは『いわゆる一般的な異世界ファンタジー世界から時代が進み、技術開発や法整備がなされた未来の姿』という感じに思う。
もっと残念なのは……それを自ら確かめることができないということだ。
おそらく、永久に。
逮捕された際、ガドッシュは鞘に納まったまま押収されてしまった。今はどこにいるかわからない。
俺は早々に裁判にかけられ、すったもんだの末、懲役一年の判決が下された。
弁護士(いわゆる国選弁護人)をつけてもらい、懸命にこの世界に来た理由を訴えたが、駄目だったというわけだ。
振り返れば、その弁護士さえ俺の話を信じていなかったように思う。
裁判では、すべての主張がばっさり切り捨てられた。
身体能力の高さも、あとで使い方をガドッシュに聞く予定だった『光魔法』も、精神系のスキルも、転移石も、俺が罪を犯したことの正当性を示すものではない、とのことだ。
……頼む。自分が異世界から来た勇者だと証明する方法があるのなら、誰か教えてくれ。
ただ、エルフの子が言っていた、『マギストアへのハッキングがどうのこうの』というのもまた、証拠不十分で不起訴となり、それは助かった。
その後は檻の中に入り、刑罰という名の肉体労働が課せられた。
青白ボーダー柄のぴっちりした囚人服を着て、主に悪魔系の風貌の奴らと一緒に作業をする。炭鉱のような場所で、緑色に光る鉱石を採取するのだ。
勇者の身体能力をもってしても、過酷で疲れる作業だった。
あと一年もこんな日々が続くのだろうかと苛立ちを覚えた。早くガドッシュと一緒に、この異世界がどんな所なのか実際に確かめて回りたかった。
そんな矢先に、忘れていたアレが起きた。
現実世界への転移だ。
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