(12)


 ──警察の取り調べの際に話を聞いて、いくらかわかったこと。

 まず、でかい塔がそびえるSF的なあの光景こそが、まさしくこの世界のリアルらしいということ。最初に俺が見た秘密の森の広場っぽいあれは、エルフの子がこの世界の魔法で作り出した仮想の風景なのだとか。

『ビジョン』と呼ばれるそれは、近ごろ多くの女子の間で流行している魔法だそうだ。都会に住みながら自分のルーツとなる地をリアルに味わえるので、心の癒しになるのだとか。

 地方民としては、共感せざるを得ない。

 ちなみにこの異世界はサームと呼ばれていて、俺が降り立ったのは、そのサームにある『ネウトラ』という国の『アイルサイド』とかいう高級住宅街だったらしい。

 残念ながらそれ以上の詳しい説明は聞けなかったが、話のふしぶしから得た印象では、ここは『いわゆる一般的な異世界ファンタジー世界から時代が進み、技術開発や法整備がなされた未来の姿』という感じに思う。


 もっと残念なのは……それを自ら確かめることができないということだ。

 おそらく、永久に。


 逮捕された際、ガドッシュは鞘に納まったまま押収されてしまった。今はどこにいるかわからない。

 俺は早々に裁判にかけられ、すったもんだの末、懲役一年の判決が下された。

 弁護士(いわゆる国選弁護人)をつけてもらい、懸命にこの世界に来た理由を訴えたが、駄目だったというわけだ。

 振り返れば、その弁護士さえ俺の話を信じていなかったように思う。

 裁判では、すべての主張がばっさり切り捨てられた。

 身体能力の高さも、あとで使い方をガドッシュに聞く予定だった『光魔法』も、精神系のスキルも、転移石も、俺が罪を犯したことの正当性を示すものではない、とのことだ。

 ……頼む。自分が異世界から来た勇者だと証明する方法があるのなら、誰か教えてくれ。

 ただ、エルフの子が言っていた、『マギストアへのハッキングがどうのこうの』というのもまた、証拠不十分で不起訴となり、それは助かった。


 その後は檻の中に入り、刑罰という名の肉体労働が課せられた。

 青白ボーダー柄のぴっちりした囚人服を着て、主に悪魔系の風貌の奴らと一緒に作業をする。炭鉱のような場所で、緑色に光る鉱石を採取するのだ。

 勇者の身体能力をもってしても、過酷で疲れる作業だった。

 あと一年もこんな日々が続くのだろうかと苛立ちを覚えた。早くガドッシュと一緒に、この異世界がどんな所なのか実際に確かめて回りたかった。

 そんな矢先に、忘れていたアレが起きた。

 現実世界への転移だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る