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『私立ネウトラ学園』

 完全中立国ネウトラにおいてはじめて設立された学校で、現在は第二~五校まで分校も存在する。

 いずれも小、中、高等部からなる一貫教育方式を採用している。

 理事長は、その界隈で知らない者はいない『生きる伝説』と呼ばれる教育者、シャルロッテ・バーナ・グライスロ(年齢不詳)が務める。なお各校にはそれぞれ運営責任者として学長が置かれている。

 型破りな理事長による先進的な教育理念と『全種族共存社会の実現とそれを成し得る有能な若者の育成』という明確かつ壮大なスローガンを掲げ、各国のあらゆる種族の若者が入学を希望してくる。そして実際に、現在をときめく有力者、著名人の多くがこの学園の卒業生だ。

 就学期間は小等部六年、中等部四年、高等部二年。二学期制。

 高等部を修了し、卒業するためには必修科目と選択科目を履修して規定の合計単位を取得し、最後に卒業論文を提出しなければならない。そのシステムは、いわば現実世界の大学のそれに似ている。

 単位取得および卒業に必要なのは、毎期末に提出するレポートや論文の出来だけ。出席日数や授業態度などは、ほぼ評価の対象とならない。

 極端な話、一度も学校に行かずとも卒業は可能という意味で、かなりの成果主義。

 それがこの学園のやり方であり、実際にほとんど通学せずに卒業する生徒もいて、そいつは現在、ネウトラ国の重要なポストに就いているそうだ。

 そういう奴がごろごろ在学し、シャルロッテ理事長の教育理念の下で学んでいる。

 それが私立ネウトラ学園。


 アッシュさんが丁寧に学園説明をし、理事長が「うむうむ」と満足げにうなずく。

 名前だけ聞くと安いギャルゲーのタイトルみたいだが……中身は相当にすごい学校らしい。現実世界じゃバッシングされそうなそのシステムも、学校嫌いな奴にとっては嬉しい限りだろう。

 だがその反面、異世界から来て右も左もわからない俺にとっては、かなりハードルが高い気が……。

 でも、やるしかないんだよな。

 よし!

「ちなみにだが、現役で卒業できなかった場合は、更生プログラムも打ち切る。残りの期間はムショに戻って努めを果たしな。それが嫌なら血ぃ吐いてでも学ぶこった」

 ……や、やるしかないんだよな。

「理事長、僭越ながら質問させてください。どうしてそんな異例の条件を?」

 アッシュさんがおずおずと尋ねる。

「あたしはこいつみたいな身元不明の子供が、毎日ふらふらして過ごすのが気に入らんだけさ。それに……いや、あとは知らん。自分で考えな」

 理事長はそう言うと俺に向き直り、いんねんを吹っ掛けるヤンキーのように顔を覗き込んだ。

「さて、もう一度だけ訊こうかい。お前さんは、どちらを選ぶ?」

 異性的な意味でドキリとしたのはさて置き。

 魔の化身がなぜかこちらにうねうねと手を伸ばしてくるのもさて置き。

 俺は目を逸らすわけにはいかないと思い、逆に睨み返した。

 答えは決まってる。もとより選択肢は一つなのだ。

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