(19)


「そんなもん自分で考えな。『己で知り、己で問い、己で答えよ』──あたしの学園の教育理念だ。お前さんが従う道理はないが、あたしと話している間は、勝手に押しつけさせてもらうよ」

 何だよ。何なんだよ、こいつ……!

「まるで、俺が何にも考えてない奴だと言われているように聞こえるんですけど?」

「違うのかい? 少なくとも、あたしにはそう見えるねえ」

「なんだって?」

「おや、図星だから怒ってんのかい?」

 理事長がからかうように言う。くそ、煽ってやがるのか。その手には乗るかよ。

「違います。怒ってませんし、図星も突かれてません」

「そうかい? お前さんは、この世界を救うために異世界から来た勇者だと言う。だがこのままだとムショで暮らし続けることになって、世界を救うどころの話じゃなくなるってのに、何の抵抗もしない。結果がどうなったとしても他人のせいにすればいいと思ってんじゃないのかい? そして諦めようとしてたんじゃないのかい?」

「う……そ、そんなこと、ないです」

 俺は少し言いよどんでしまった。知らぬ間にアッシュさん任せにしていた自分に思い当たったからだ。

 だがよく考えたらそんなことはないはずだ。俺は諦めようなんて思ってない。現に、こうしてアッシュさんに呼び出されることがなければ、自分の力で脱獄しようとさえ思っていたくらいだ。

「ああ、やっぱり嫌な臭いがするねえ。どうしてもあたしはそう感じるよ。よしんばお前さんが、本当にその勇者とかいうふざけた輩だとしてもねえ、そんなふうに適当な覚悟で嫌々世界を救ってやろうなんて思ってる阿呆には、あたしはこの命を託したくないねえ」

「そんなことないって言ってんだろ!」

 気づけば俺は叫んでいた。

 執拗に言われ続け、我慢の限界に達したのだ。

 理事長は多少驚いた顔をしたが、すぐにニヤリと笑って、

「ほう、そんなことない、か。ではお前さんは──」

「しつこいんだよ! 俺はそんなんじゃねえ! 俺は……俺は、ずっと勇者として冒険したり、世界を救ったりすることを夢見てたんだ!」

 俺はその言葉をさえぎり、敬語も無視してぶちまけた。

「確かに偶然かもしれないけど、俺は選ばれて、それが本当になろうとしてたんだ。今はトラブってて思ったように進んでないけど、これはきっと俺にしかできないことなんだ。この世界を救いたいと思ってるんだ!」

 理事長の表情から笑みが消える。

「本気で言ってんのかい? お前さんの言う通りなら、そもそもあたしらが住むこの世界は、お前さんとは関係のない、縁もゆかりもない世界なんじゃないのかい?」

「ほ、本気だ! それでも俺はこの世界を救いたいんだ!」

 俺は断言した。

 そうだ。チート能力で無双とか、それによる尊敬と賞賛の嵐とか、多種族美少女ハーレムとか……そういう欲求がなかったわけではないが、そういうことじゃないんだ。

 俺が勇者になると決めた理由は、ただの高校生に過ぎない俺が、現実世界では絶対にできないような大きなことを成し遂げたいと思ったからだ。確かに縁もゆかりもない異世界ではあるけど、世界を救うだなんて体験は、普通ならできない。だから二つ返事で引き受けたのだ。

「──縁ならできたさ。この世界に来た瞬間に」

 何も考えず、浮かれて勇者になったわけではない。

 そういうことに、しておく!

「ほう、なかなか良い目になったじゃないか」

 理事長がうなずく。熱意が伝わったのだろうか。

「だったら、それを行動で証明してもらおうかい。口先だけでああだこうだと言われても、誰も信じられんからねえ」

「行動……」

 繰り返すと、理事長はニヤリと笑った。

「だが、はじめに言っておくが、この世界にはお前さんの言うような危機らしきもんは、どこを探しても見当たらんぞ?」

「…………え?」

 俺は思わず聞き返した。

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