(15)


 胸に手を当てる。その位置には、この世界に転移する時に刻まれた紋章がある。

 白地に黒の、まるで現実と異世界が混ざる様子をあらわしたような、不思議な模様。

 勇者の紋章だ。


 ──我が力よ。


 俺は口にした。

 その途端、聞いたことのない呪文が、脳裏に閃いた。

 それは曇天に光芒が射すような体感だった。

 だが。

「呪文、長っ!」

 俺のツッコミに応じず、ガドッシュは指示を出す。

「ボクのコアに手をかざし、それを一語一句違たがわずに唱えるのです。さあ、急ぐです!」

 八つの口が、ぐぱぁ、と一斉に咲く。

「ああ、急ぐよ、急ぐさ!」

 俺はガドッシュを眼前に掲げ、柄に埋め込まれた赤いクリスタルに触れる。

 唱えなければならない呪文は長いし唱えづらそう。

 それを初見で間違えずに詠唱しろって言うんだから、なかなか無茶だ。

 だが──やるしかない!

 

「……汝の天よりはるかを知り

 汝の地より深きを知る

 その真智に代わりて我命ず

 汝の爆ぜりを我に与えよ

 我が名は────」


 たまらない。

 俺は興奮を抑えながら、そのファンタジックな呪文を唱えた。

 血がたぎる感覚。 

 これぞ、俺が憧れた……、


「──我が名は、勇者ツヨシなり!!」


 憧れた、ファンタジー世界の魔法だ!

 次の瞬間、俺の両手にマナがぐんぐんと集まってきた。

「詠唱成功です!」

 このハトラ全体──いや、宇宙全体から力を呼び込んだような、そんな煌々としたマナの強い光。巨大なエネルギーを一気に集積しているような感覚があった。

 対する敵。重い金切り声を上げ、襲いかかってくる。

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