(16)


「いくぜガド」

「はい」

 ぶっかます。


消滅シャイン・光爆ブラスト!」


 俺とガドッシュの声が重なった。

 一瞬──何も起こらないのかと不安になった。

 敵のまがまがしい口は、俺を囲い込むように肉迫していた。

 だが次の瞬間。

 それらが一斉に爆ぜた。

 爆風はない。

 炎も、硝煙も上がらない。

 起こったのは、強烈な光と、何度も鳴りひびくけたたましい破裂音と、敵の断末魔。

 巨体が次々と消滅していく様子は、かすかに影として見える程度だ。それくらい強い光だった。

 ──光魔法。

 それは一定範囲の空間に存在する光子に対して働きかける魔法、らしい。

 光子というものは、いかなる場所にも在るという極小の粒子。人間の肉眼で見ることは敵わないが、それは俺の周辺の空間、体の表面、内部にも存在し得る。もちろん、大口を開けた巨大マンイーターの口内や、食道、触手の一本一本にも。

 それら光子の粒が一斉に爆破。その瞬間にも連鎖的に光子同士が誘爆を繰り返し、対象となる敵を隅から隅まで、跡形もなく消滅させる。あらゆる物質を構成する原子よりもはるかに小さなそれらを用いて、根本から悪を消し去る力。

 光魔法が最強と呼ばれる所以を、女神様はそう説明してくれた。

 そんな魔法なら、いかに増殖を繰り返す敵であったとしても、その元となる種子やら胞子ごと塵と化すはずだ。

「なあガドッシュ、そうだろ?」

 まばゆい光は、しばらく消えそうになく、谷間全体を照らし、そして揺らし続けていたが、あっという間に黒い影は見えなくなっていた。

「はい、邪悪なものは、もう感じないです。完全に殲滅できたようです」

「本当か? 今度こそ、本当にやったのか?」

「はい、本当の本当です」

「ははっ」

 笑いが込み上げた。

 それこそ光が弾けたような達成感と高揚感が、一気に胸に湧き起こる。

「っしゃあ! 見たかこの野郎!」

 たまらず叫ぶ。

「ボクも嬉しいです! 最高の気分です!」

 ガドッシュが喜びを表現したくてたまらないといった感じで人型に──ガドの姿になり、ぴょんぴょん飛び跳ねる。

「異世界、救ってやったぜ!」

「やったです!」

 どちらからともなく手を取り、二人でドタドタと適当な勝利の舞を踊った。まばゆい光魔法の残滓を、キャンプファイヤーのごとく背に受けて。

 だが二人して、すぐにばったりと倒れた。最高に晴れやかな気分だったが、ガドは力を使いすぎて疲れたのか、大あくび。

 俺はといえば、首の転移石が光り、浮きはじめていた。

 そういえば今日は現実に戻る日だったな。

「ガド、ちょっと十分だけ行ってくるからな」

 俺が言うと、ガドは眠そうに返事をした。

 こっちに帰ってきたら、やることが多そうだ。すぐに親方たちを運ばなきゃだし、そこからサームに戻って、報告とかいろいろして……。

 あともしかしたら。もしかしたらだけど、凱旋パレードとかあったりして……?

 そんな想像をしつつ、俺はいつものめまいと白黒のモザイクに身をゆだねた。


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