#01 無能の少年(06)

 「うわぁ、なんだ、なんだ」

 「助かったよ。身体の出し入れは自分じゃできないからね。これでようやっと修復ができる」

 「まさか、この中にあの巨体が入っているのか?」

 「そうだよ。見てただろ?」

 「信じられない。それに全然重さも変わらないぞ」

 「??? 何を言ってるんだ、にーちゃん。当たり前じゃないか?」

 想像はしていたけれど、やはりここは僕の常識が通じない世界らしい。

 「さて、にーちゃん。これからどうしようか? おいらはこのまま宝石の中で身体を修復できればどうでも良いんだけど」

 「どれくらいかかるんだ?」

 「完全回復するには三ヶ月ってところかな? えらくボロボロだからね」

 僕はこの時の会話を後々後悔することになる。“なぜコーディがボロボロなのか”をもっと気にとめるべきだった。そうしたらもっと違う行動も取れただろう。ただただこの時の僕は、自分のことで頭がいっぱいだったのだ。

 「そうか。じゃあ、どこか人のいる街に行けないか? まずは情報が欲しい」

 「うーん良いけど、近い村でも結構あるよ」

 コーディは、グイッと浮き上がり、僕の右斜め前の方向をピンと指した。

 「こっちの方向に……だいたい三日ってとこかな?」

 「大分あるなぁ。しかも森があってよく見えないや。そうだ、コーディ! さっきの鎧をもう一度出せないか? 上から見れば場所がよく分かると思うんだ」

 「うーん、今は外に出したくないなぁ。それにおいらに乗るより、あの崖に登る方がいいんじゃないかい? まずは両手でおいらをしっかりと握ってくれよ」

 なるほど、あの小高い崖の上に僕を運んでくれるのか。何かと便利だなコーディは、などと思いつつ僕は指示に従った。

 「あれ? コーディ。さっきは空を飛ぶ魔法なんてないって……」

 僕の疑問を遮るようにコーディが叫ぶ。

 「じゃあ、行くよ!」

 手の中のコーディがグンと持ち上がり、僕はその力に逆らえずに宙高く舞い上がる。

 「うわぁぁぁぁぁぁ」

 僕は急になくなった地面を求めるように足をバタバタと動かし続ける。

 「にーちゃん、しっかり着地して連続ジャンプしてよ!」

 何言ってるんだ、こいつは! そう思う間もなく僕の眼の前には崖から飛び出した小岩が近づいてくる。コーディを掴んだ僕の手はその小岩に合わせるように右に軌道修正する。

僕はタイミングを合わせ小岩に着地、そのまま大きく膝を折り曲げてジャンプ! まるで空の中に吸い込まれる僕。

 「あはは、うまい、うまい」

 そしてコーディがタイミングを合わせて再ジャンプすると、僕の身体は一層高く舞い上がる。また崖の小岩が近づいてくると、再びジャンプ! これを2、3回繰り返すと僕は崖の上にたどり着いていた。

 「はぁ、はぁ、はぁ。おい! 腕が抜けるかと思ったぞ!」

 こんなに地面を踏みしめることがありがたいと感じる日が来るとは思わなかった。

 「この方が早いだろ? にーちゃん」

 「あのなぁ……」

 なんだか一気に疲れた。そしてそのまま後ろに倒れ、大の字になり空を見上げた。

 ついさっきまで地の底にいた僕が、今はこんなに空に近い場所にいる。しかも周りに見下ろすようなものは何一つない。僕は身体を起こし、どこまでも続く世界をただ眺めていた。どこまでも続く川、あちらこちらに点在する森、どこまで続くかわからない地平線。

 あまりに広大な世界。何をしても、どこに行っても構わない世界。これを自由と言うのだろう。でも……。

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