#02 水の少女(08)

 「勇司くん探したよ。川の中に入って何やってんの?」

 空の散歩を楽しんだ夏美さんの表情は非常に明るい。

 「はは。魚とか捕れないかなって」

 「もう、体操着水浸し。後で貸して。一緒に洗ってあげるから」

 「あ、いいっ。自分でやるから」

 「今さら遠慮することないのに……」

 「いやっ、ほんと、ありがとう。それより見てくれよ」

 僕は川の浅瀬に大きめの石を並べ、魚を追い込む場所を作ったのだ。

 「悪いんだけど僕が合図したら、その辺にあるちょっと大きめの石を夏美さんが乗っている岩に思いっきりぶつけてくれるかな?」

 「いいけど?」

 不思議そうな顔をする夏美さんの前で、僕は水面をたたき始めた。驚いた魚が僕から逃げて回るはずだ。そして、逃げ回った先は石で通行止め。夏美さんのいる岩の前には今、大量の魚がいるはずなのだ。

 「いまだ! 夏美さん、石をぶつけて」

 「はいっ!」

 彼女は僕が予想したよりも大きな石を軽々と持ち上げ指示通り岩に叩き付けた。

 ゴンッ!

 鈍い音が身体に伝わってくる。その衝撃は僕の腹にも伝わってきた。これは……いけるんじゃないか? やがて水面に魚が一匹、二匹……次々と浮かび上がってきた。

 「すっごーいっ! 大漁だぁ」

 「やった! じゃあ魚を投げるから受け取って!」

 「はいっ!」

 僕がやったのはいわゆる“ガッチン漁”。石と石がぶつかった時の衝撃で魚を気絶させる力技だ。あまりにも効率が良すぎるので日本では禁止されている地域も多いらしい。

 魚を投げながら夏美さんに話しかける。

 「果実ばっかしで飽きたでしょ? ふたりいれば火も何とか起こせると思うから、手伝ってくれる?」

 「……そっか。同じこと考えてたんだね。じゃあ、後でいいもの見せてあげる」

 「いいもの?」

 「ないしょ」

 悪戯っぽく笑う夏美さんの胸でコーディがふらふらと揺れていた。


 「あった、あった」

 頼るべきは教科書だねぇ。夏美さんの持っていた家庭科の教科書に魚のさばき方が載っていたのだ。さすがに包丁はないので、代わりに僕のカッターナイフを使った。枝を魚に突き刺して下ごしらえを終えた。

 「じゃあ、いよいよ火を起こそうか」

 僕がそう言うと夏美さんは自慢げな笑顔を見せた。

 「勇司くん、ちょっとこれ見て」

 僕の前に握った右手を差し出し、ゆっくりと開いた。

 「ん? 何もないよ」

 「ちょっと待って。あと、あまり顔を近づけないで」

 僕が怪訝な顔をして一歩下がると夏美さんは集中しはじめた。

 「……ん、来た、来た、来た、いくよ」

 ぼんっ!

 軽い小爆発と共に彼女の手の上にピンポン玉くらいの火の玉が浮いていた。

 「え? 何これ」

 「あ、危ないよ。本当の火の玉だから」

 確かに手をかざすと暖かい、というより熱い。

 「あん、もう限界」

 彼女が手を引っ込めるとしゅんと火の玉も消えてしまった。

 「……まさか、夏美さん」

 彼女は満面の笑みを浮かべつつ、照れくさそうに言った。

 「えへへ、コーディが私には魔力があるって教えてくれて。ちょっとコツがあるけど、思ったより簡単にできたよ。これで火の問題は解決だね」

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