#02 水の少女(07)

 翌朝、驚くほど夏美さんは元気になっていた。まさか朝イチで着ている物を全てはぎ取られそうになるとは思わなかった。結局、見てないところで体操着に着替えて、練習着や制服、そして下着は彼女に差し出した。おかげで股間が涼しくて、なんか落ち着かない。

 彼女は川で衣服を洗濯してくれたのだ。ふたりとも運動部で、ユニフォームや体操着を持ち歩いていることが幸いした。何というか同級生にパンツを洗ってもらうというのは実に照れるものだ。同時に彼女自身の下着も洗っているので、僕が見てる訳にもいかない。仕方ないので食料調達に行った。コーディには鎧のまま、彼女の護衛をお願いした。まぁ、あの巨体がいれば安心だろう。

 ひと仕事終えたら、朝食。ワンパターンの果実だけど、ふたりとも争うように食べた。会話のある食事って本当に楽しい。

 ちなみに今、コーディはあお向けに寝そべり、洗濯物を干す台になっている。本体である宝石は僕の胸に戻り、横たわる身体を見てブツブツ言っている。あそこに僕の彼女の服や下着が一緒に干してあると思うと複雑な気持ちだけど、彼女は決してそれを見せてくれなかった。まぁ、当たり前か……。


 「すごいなぁ、夏美さん」

 食事が終わると、彼女は柔軟体操を始めた。

 「最近、色々さぼっちゃったからなぁ」

 流石にトップアスリート、柔軟性が半端ない。両足を真横に開き、そのまま上半身を前にべたっと付けてしまうのには驚いた。

 「そんなに念入りに準備体操しなくても大丈夫じゃないの?」

 「あはは、いつもやってることだから」

 事もなげにいう彼女。そのまま僕と会話を続けながら、ありえない角度で身体を曲げていく。本当に骨が入っているのかこちらが不安になるほどだ。

 そういえば彼女のランニングスタイルはとても美しかったことを思い出した。彼女はよく野球練習場の周りを走っていて、陸上部の連中をも軽々と追い抜いていく姿をよく見かけたものだ。

 「じゃあ、コーディを渡すよ」

 「はいっ!」

 食事中に話し合って、夏美さんにもコーディに慣れてもらうことにしたのだ。僕らの旅にコーディの力は不可欠。いざという時に夏美さんがコーディを扱えないと困ったことになりそうだから。

 ペンダント形状の宝石コーディを首にかけると、夏美さんの胸でポンと跳ねた。

 「おっ?」

 おっ、じゃねーよ。このエロペンダント。考えてみると意識のあるペンダントって、かなり役得だよな、くそっ。

 「じゃあお願い、コーディ」

 「オーケー、ナツ。まず、両腕を水平に上げて」

 コーディの紐がほどけ、二本の腕のようになり夏美さんの肩から脇の下にぐるりと巻き付いた。それは僕とコーディで改良した飛行スタイル。元々のコーディを手で掴む体勢だと人間側の肩が抜けてしまう。それにコーディの紐で支えてくれると、こちらの腕が自由に使えるし、コーディも飛行バランスを取りやすい。一石二鳥という奴なのだ。

 コーディが胸の位置に来るパターン、背中にあるパターンの二通りある。夏美さんを救出した時はコーディは背中に張り付いてもらっていた。最初は胸にある方がバランスを取り……やす……い。

 「どうかしたの、勇司くん?」

 「あ、いや。気にしないで続けて」

 「変な人?」

 やばい。動揺がばれたか?

 気付かなかった。この飛行スタイルにはこんなメリットがあったとは。彼女もまた体操着。下はショートパンツで上はTシャツ。その状態で両肩の付け根で服を縛ると身体のラインがしっかりと浮かび上がるのだ。……特に胸回り。

 「いくよっ!」

 コーディがポンっと飛び上がると、きゃーきゃー言いながら夏美さんは空を飛び回り始めた。恐怖ではなく、新鮮な体験ゆえの歓声だ。トップアスリートだけあって、あっさりと安定した飛行を見せている。

 そういえば、僕もノーパンであることに気付くとそそくさとここから移動した。

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