#10 ふたりだけの軍隊(03)

 僕はアクセルを吹かし、スピードを上げた。だんだん壁に押し当てる力が弱くなりエアバイクのバランスが悪くなる。もう、地上の建物は豆粒のような大きさだ。落ちたら間違いなく死ぬ。ギルトは氷球を放つが、それは僕の両脇をかすめていく。

 「……もう、コース変更は許さないってか」

 本来、上と下の戦いだと圧倒的に上が有利だ。しかし、今回は足場のない僕らが圧倒的に不利。たたき落とされれば終わりだ。前回のようにエアバイクを掴まれても駄目。それなら……。

 「今だ!」

 僕の合図でコーディが飛び上がる。僕もタイミングを合わせスロットルを噴かす。グンっとエアバイクが舞い上がる。いや、今は重力が後ろに効いているので正確な言い方ではない。強い加速度とエアバイクの推進力で塔の壁から離れつつ、上空へと舞い上がる。顔をこちらに向け、呆然と見つめるギルト。その頭上をエアバイクは通り抜けていく。

 「よし! コーディ。そろそろ塔の方向に移動してくれ」

 「人使いが激しいなぁ、にーちゃん」

 コーディがグンと塔の方向にジャンプをし、エアバイクの軌道が変わる。

 「悪いけど相手してるヒマないんだ、じゃあな!」

 僕はこれで戦闘が避けられた。そう思っていた。

 「嘗めんなよ、このガキぃ!」

 ギルトはそう叫ぶとその場で反転。塔の壁を上に向かって走り始めた。力ずくで氷を剥がし、踏み出した足の裏を瞬時に凍らせる。信じられない芸当を、地面を走るようなスピードで実現している。重力によって推進力を奪われたエアバイクにぐんぐん近づいてくる。そして、壁を蹴りエアバイクにジャンプ!

 「何ぃ!」

 ギルトの筋力は並じゃない。そのパワーから生み出されるジャンプ力は驚異的と言って良かった。不自然な姿勢から水平方向に飛ぶその身体は弾丸のようにこちらに向かってくる。彼女もまた、夏美さんに匹敵するジャンプ力を持っていたのだ。ギルトの手が伸び、今まさにエアバイクに届きそうだ。あの時の恐怖がよみがえる。文字通り、半殺しにされたミドの街の戦いが。

 ギルトの手がエアバイクを掴む。その握力でフレームが歪む。僕はたまらずエアバイクを蹴り、飛び降りた。空中で足場がないのでギルトのパワーも無意味。支えることができずに、作用反作用の力で左右に分かれていく。

 「コーディ! 来てくれ」

 背中に取り付いたコーディが器用に僕の身体を這って僕の右手に収まる。ギルトがこちらに向かって何か叫んでいるが聞こえない。

 「ペナート・コーディオン!」

 宝石形態のコーディが光を放ち、巨人・コーディオンが空中に現れる。コーディは僕を掴むと胸の操縦席に叩き込んだ。

 「痛てぇ。でも、よくやったコーディ」

 「でも、これからどうするんだい? おいら飛べないぞ」

 操縦席に座った僕はコーディの主導権を取る。

 「こうするのさっ!」

 腰の大剣を抜き塔に突き刺す。何とか塔にぶら下がることができた。

 一方、ギルトはエアバイクに挑んだため、自由落下の真っ最中だ。もはや、塔から離れ、戻ることは叶わないだろう。

 「なんて無茶する奴なんだ……」

 そう想った僕の前を黒い影が横切る。翼を広げ、まっすぐに飛んでいく。それは天使のようなシルエットをしていた。

 「黒い天使……あれがランペットか」

 「あの速度なら余裕で追いつくね、ギルトに」

 「ああ、あれは殺しても死なないタイプだな……」

 「それよりにーちゃん、どーすんのさ、これ」

 コーディは塔の途中に剣を突き刺したままぶら下がっている。

 「さて、どうすっかな……」

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